腸に目立った異常がないのに下痢や便秘を繰り返す「過敏性腸症候群」。潜在的な患者は国民の1割以上もいるといわれる。
東京都に住む山口真人さん(仮名・22歳)は、飲食店に料理人として就職した4年前から、1日に何度も下痢をしたり、便秘になってガスがたまったりするようになった。食品を扱う仕事柄、行きたい時間にトイレに行くことができず、仕事も休むようになった。
山口さんは、地元の病院や大学病院など10以上もの病院を受診した。腸の検査をしても異常は見つからず、腸の動きを抑える薬を処方されたりしたが、おなかが張って余計に苦しくなるなど、病状は改善しなかった。山口さんは「治らなければ死にたい」とまで思いつめ、鳥居内科クリニックの鳥居明医師の診察を受けた。
鳥居医師はまず、山口さんの便の検査や腸の内視鏡検査などを実施したが、異常は見つからず、病状から過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)と診断した。
過敏性腸症候群は、検査では目に見える病気が見つからないのに、腹痛や腹部の不快感とともに、下痢や便秘を慢性的に繰り返す病気だ。主に下痢型、便秘型、下痢と便秘を繰り返す混合型がある。下痢を伴う場合、通学や通勤途中の電車、試験、会議、仕事中などに何度も腹痛や便意を催すため、学校や仕事に行けなくなるなど、生活への支障が大きい。
原因はストレスと言われている。腸と脳はたがいに密接なかかわりがある臓器だ。脳がストレスで興奮すると、腸の運動や感覚が過敏になり、痛みや便通の異常を引き起こす。
「この病気は腸の病気ですが、同時に脳の病気でもあることがわかってきました。完璧主義の人がなりやすく、理想に近づけないというストレスが発症の一因となります」(鳥居医師)
治療の基本は薬物療法だ。消化管の動きを調整する薬や、下痢止め、下剤を用いて症状を抑える。不安感が強い場合は抗うつ薬を処方することもある。
※週刊朝日 2013年4月12日号