河尻さんは評伝の企画が走り出した6年前から日米の多数の関係者に取材を重ね、丹念に石岡さんの一生を追いかけた。500ページを超える力作に登場する逸話や会話は、物語ふうに展開していく場面もあるが、ほぼ事実に基づく。
書名の「タイムレス」は「オリジナリティ」「レボリューショナリー」と共に石岡さんの口癖だった。流行に流されない部分に独創性と革新があり、不滅と永遠がある。
「石岡さんは女性だけど男性的な要素も持ち、タフだけどスイート、保守的だけど革新的という矛盾を内面に抱えていた。そして、矛盾による摩擦を解決するために『私』という存在をぶつけ、表現のエネルギーに昇華した人。少年ジャンプならぬ『少女ジャンプ』と呼びたいくらい、彼女は友情を育み、血と汗と涙を流し、達成していった。真剣さを冷笑する空気が蔓延(まんえん)していますが、結局は王道が強い。最後に残るのは本物ということを石岡さんは教えてくれる。それがこれからの時代の一つの道しるべになると思うんです」
(ライター・角田奈穂子)
■リブロの野上由人さんオススメの一冊
『さよなら、男社会』は、努めて「男」を生きている、全ての男性へ捧げる物語。リブロの野上由人さんは、同著の魅力を次のように寄せる。
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男性は、この社会、すなわち男社会において、特権的地位にある。その地位を得るに至る社会化の過程を実体験に基づいて振り返る。随分と暴力的な通過儀礼もあったし、理不尽に思うことも少なくない。この男社会を維持することに、どれほどの価値があるだろうか。そのように問う。
男性を「男」として育てる家庭、学校、その他の社会の規範や圧力、その構造を読解する。誰でも経験したことがある卑近な例を挙げながら「男性性」の内実を言葉にしていく。その非論理性や暴力性、あるいは脆弱性が明らかになる。
「男なら」「男らしく」「男として」云々(うんぬん)は、時代とともに風化した古臭い観念か。残念ながら、21世紀の今も、まだ死語にはなっていない。努めて「男」を生きている人に、著者の問いが悩ましく響く。多くの男性に読んでほしい。
※AERA 2021年2月1日号