AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』は、伝説的デザイナー、石岡瑛子の初の本格評伝。日本の広告界と世界のエンターテインメント界を魅了した“エイコ”の物語だ。著者の河尻亨一さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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艶(あで)やかなショッキングピンクの表紙。帯の白黒写真の女性が挑発的な視線を投げかけてくる。フランシス・コッポラ監督に「境界を知らないアーティスト」と評されたデザイナーの石岡瑛子さんだ。
石岡さんは1960~80年代前半、グラフィックデザインで日本の広告界を牽引(けんいん)。渡米後は衣装デザインに活動を広げ、映画「ドラキュラ」で米アカデミー賞を獲得。マルチに活躍し、2012年に亡くなったが、いまだ広告・エンタメ界のレジェンドだ。
その評伝『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』は、長く広告ジャーナリズムに身を置く編集者、河尻亨一さん(46)の初めての著書になる。
「石岡さんの仕事への情熱は、元気のない今の時代こそ目を向ける価値があります。普通の人なら諦めてしまうことを夢と勇気と希望を持って立ち向かい、追い詰められながらも理想を成し遂げていった。その生き様をクリエーターだけでなく、幅広い層に知ってもらいたかったんです」
河尻さんが石岡さんと交流したのは最晩年。しかし、信頼は厚く、最後の取材になったインタビュアーも務めた。
ストイックなイメージが強いため、河尻さんも最初は怖々、出向いたが、実際の石岡さんは優しく面倒見のよい姐御(あねご)肌。話題が豊富で本音を包み隠さない。自分が手がけていることを知ってもらいたくて、一生懸命、話す姿はとてもキュートだったという。