それでもむずかしいときは、シングル単語作戦。

「言うときも聞くときも、一番言いたい1語を見つけるようにしています。例えば、お客様がメニューを見ながらWhat is the difference between regular and jumbo?とビールグラスのサイズの違いを聞いたとします。とりあえずdifferenceだけ聞こえれば、グラスのサイズかな?と予測がつく。自分が言う側になったときも、最後はdifferenceのひと言で、通じることがありますね」

 それでもだめなときは前出の金井さんと同様。「レギュラーとジャンボのグラスを持ってきて、選んでもらう」というように、視覚に訴えるワザを発動することもあるそうだ。

 視覚といえば、マスク英語ではジェスチャーも重要。前出のランサムはなさんは言う。

「日本人は、落ち着いているキャラがベストだと考えていますが、英語圏は、とにかく明るいキャラがいいと考える人が多いので、ジェスチャーが役に立ちます。また英語には、日本語の擬態語のようなオノマトペが少ない。ジェスチャーで微妙な表現を補っている部分もあると思います」

 例えば、「太郎さんは、困って混乱している」ことを表現するとき、日本語なら「太郎さんはオロオロしている」というオノマトペが使える。ところが英語にはこれがない。「Taro was…like this!」と前置きして、困っている様子を、目を見開いてキョロキョロ見回すなどのジェスチャーを使って演技で表現するしかないこともあるという。

「ジェスチャーを使うなら、オーバーなくらいの動きで。表情豊かに、言葉は落ち着いてゆっくり話すのがいいですね」

 ちなみにジェスチャーは日本と英語圏で意味の違うものがけっこうある。代表的なジェスチャーは覚えておくと便利だ。

 英語圏でも、マスク越しの会話に困っている人は少なくないらしく、YouTubeにはマスク会話講座などが存在する。鼻にかかるMやNなどの音は区別しにくいので、例えばコーヒーの「Mocha」の「モ」は「(ムー)モ」というように、Mの音を長く発音したり、語尾を強調したり、いつもは力を抜いて発音している音を、「あえて筋肉を使って表現する」のがポイントとされているという。

 インバウンドの受け入れにはまだ時間がかかる模様だが、ウィズマスク対応で受け入れ準備を整えたい。(ライター・福光恵)

AERA 2021年2月1日号