キッチンスペースが真ん中に置かれたグッドパッチの社内は、インスタグラムなどが生まれたサンフランシスコのコワーキングスペース「Dogpatch Labs」から着想を得たという(写真:グッドパッチ提供)
キッチンスペースが真ん中に置かれたグッドパッチの社内は、インスタグラムなどが生まれたサンフランシスコのコワーキングスペース「Dogpatch Labs」から着想を得たという(写真:グッドパッチ提供)
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 ビジネスシーンで「アート」が注目されている。特にデザインの重要性が世界で認識されている。その背景にあるものとは。AERA 2021年2月1日号から。

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 07年、iPhone登場の衝撃は、IT産業も激変させた。そして、アプリ開発に大きく影響を与えたのがデザインという考え方だった。いまでは多くのデザイナーがアプリのユーザーレビューを確認し、時には返事も書き込む。ひとたび口コミが広まれば、利用者数は国境を超えて何十倍にも何百倍にもなる。

「デジタルプロダクトは浸透するスピードがとても速く、ユーザーと向き合ったものづくりが重視される時代がきたと感じました」

 そう指摘するのは、ウェブやモバイルアプリのUI/UX(ユーザーエクスペリエンス)の設計やデザインを専門とするグッドパッチCEOの土屋尚史さんだ。グノシーやマネーフォワードなどの数々の企業と伴走してきた。だが、創業時、UI/UXデザインに重きを置く企業は多くなかったという。

「高度経済成長期のソニーやホンダ、パナソニックは経営者が今までにないものを作ろうというマインドを持っていました。それがバブル崩壊以降、創業者がいなくなった会社では、サラリーマン経営者が思い切った投資ができずにイノベーションが止まり、急ブレーキがかかってしまった」

経営陣の中にデザイナー

 デザイナーの仕事の範囲は限定的になり、表層的なデザインが増加。その一方で、海外では真逆の動きが出ていた。

「経営陣の中にデザイナーがいて、優れたプロダクトは何かという意思決定やディレクションをしています。結果を見せるしかないと、UI/UXの良いデザインをたくさん手がけて、大切だと声高に言ってきました」

 積み重ねが結実し、グッドパッチは20年にデザイン会社として初めて東証マザーズに上場を果たす。デザインの重要性が日本市場にも浸透した証しだ。

「紙の通帳」を握り、ATMに並ぶことが当たり前だった金融業界にも地殻変動が起きている。

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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