末永幸歩(すえなが・ゆきほ)/美術教師・アーティスト。武蔵野美術大学卒。東京学芸大学で美術教育を研究(写真:本人提供)
末永幸歩(すえなが・ゆきほ)/美術教師・アーティスト。武蔵野美術大学卒。東京学芸大学で美術教育を研究(写真:本人提供)
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 正解のない時代、子どもたちに求められるのは自分で答えを作る力だ。『13歳からのアート思考』著者・末永幸歩さんは、それらが「美術」で身につけられるという。そのためには、従来型の授業手法からの脱却が必要だとも言う。AERA 2021年2月1日号で、末永さんが美術の重要性やアート思考などを語った。

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 美術の授業はたいてい「絵を描く」「ものを作る」「有名な作品について知識を覚える」ことが中心です。本来は創造性を育むのが目的ですが、実は多くの人に苦手意識を植え付けているのではないか。そんな疑問から中高生向けにちょっと変わった授業をしてきました。

 最初は「すばらしい作品ってどんなもの?」「『リアルさ』って何?」など六つの問いから始めます。「名画」にも「色のセンスが悪い」など思い切りダメ出しをして、自分がそう感じた理由を話し合います。さらに「写実的=リアル」かを話し合ったり、いろいろなものを「アート」と「アートでない」ものに仕分けしてもらったり。すると生徒たちは「常識」ではなく「自分なりのものの見方」に心を向け始めます。

 実技に入るのはそれからです。最初は六つの問いから一つを選び、最終的には自分で見つけた問いに対して、実際に手を動かし作品を作ります。

 成績は作品の見栄えや完成度ではなく、試行錯誤の過程を文章にしてもらい、その変化の度合いを評価します。考え抜いた生徒ほど、アウトプットは謎のものだったりしますが、それでいいのです。

 ビジネス界で「アーティストの思考プロセス=アート思考」が注目されていますが、私はアートは植物と似ていると考えています。アートにおける作品は、植物で言えば花。でも本当に重要なのは地面の下です。その人独自の興味のタネと、そこから四方八方に伸びる探究の根があるかどうか。

 これからは「正解を見つける力」よりも「自分なりの答えを作る力」が必要ですが、元になるのはこの興味のタネと探究の根です。それらを育むのに美術はうってつけ。だからこそ授業の手法もアップデートが必要だと思います。

(構成/編集部・石臥薫子)

AERA 2021年2月1日号