太藤病とは、第4代京都大学医学部皮膚科学教室教授である太藤重夫先生が世界で初めて報告した皮膚病です。顔にニキビのようなブツブツができ、毛穴にはアレルギーで有名な好酸球がわんさか集まってきているのが特徴的です。

 アジア人、とくに日本人でなぜか多い皮膚病ですが、ここ10~20年で欧米でも注目をあつめるようになりました。それは、太藤病はHIV感染に伴って出現することもわかったからです。

 欧米人にとってみれば教科書や論文でしか見たことがないまれな皮膚病になるので、当然、日本人の私に質問してくるわけです。

 何人か太藤病の患者さんを診察したことがある私は、あえて「オオ」を強調するように「オオフジ病にみえる」と答えました。

 それを聞いてスイス人皮膚科医は自信をもってこう返してきました。

「イエス!オフジ!」

 "欧米人が覚えづらく発音しづらい病名"で欧米人を困らすという私の小さな野望が、自信を持って間違って発音する彼らにあっさり負けた瞬間でした。

 それからまた彼らは謎のオフジ病について、あーでもない、こーでもないと議論に戻っていったのでした。

 そういえば、私の名字、大塚も正しく発音されたことはありません。だいたいオツカです。なので、私が将来、新しい皮膚病を発見して大塚病と名付けたところでこれまた謎のオツカ病に変換されてしまいます。

 調べてみると、英語圏の方にとっては伸ばす音や撥音、母音の連続などはどうも発音しづらいようです。そうなると、意外と”アオキ・イノウエ病”なんて名前は欧米の方は発音しづらいのでしょうね。いたずら心に、彼らがカンファレンスでうまく発音できず困っている姿をニヤニヤしながら見てみたい気もします。肝心の”大塚”はどこへ行った?となりますが……。

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