■「さんかく」の正体は?  

 映画タイトルであり、原作漫画のタイトルに含まれている「さんかく」。これは、主人公の名前・三角(みかど)に由来している。三角は、自らの肉体に、他の霊能力者に「侵入」させることによって、「よりくっきりと霊を見る力」、つまり「見える力」を共有させる。「さんかくの窓」は、三角康介によって開かれる新しい風景、のことだろう。  

 映画ポスターでは、三角役の志尊淳、冷川役の岡田将生、そして死霊使いの非浦英莉可(ひうら・えりか)役の平手友梨奈が、象徴的な三角形の光の境界の内側にいる。この光る三角形は、冷川が発動させる「結界」(霊的な存在や他者から身を守るための領域)が具現化されたものである。冷川たちは、この三角形の結界の内側で、自分たちの戦いを繰り広げていくわけだが、同時にこの「さんかく」は、「彼らを縛るもの」の正体をみせる空間にもなりうる。  

 映画では、この「さんかく」の描写や設定も、漫画とは少し違う視点で描かれており、この点を比較することも、映画と原作漫画を楽しむ要素となるだろう。冷川が「私を助けてくれるに違いないと一目見て確信」したというミカドが、この「さんかく」の中で開眼させていく「自己」を、美しく恐ろしい映像を通して見ることができる。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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