「恨ミシュラン」
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 開高健、野村克也、村上春樹、ナンシー関、松本人志……「週刊朝日」では、エッセーからマンガまで、ジャンルを問わず、さまざまな著名人が連載してきた。コラムニストの泉麻人氏が、思い出の連載を振り返る。

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 僕の「週刊朝日」の最初の記憶は、子どものころに読んだ岡部冬彦さんの漫画「アッちゃん」。主人公のアッちゃんは、親しみやすいキャラクターなんだけど、子どもなのにどこか核心を突くようなことを言う、大人顔負けの子どもでね。散髪に行ったとき、床屋で読んでたんですが、「アッちゃんに似てるね」なんて言われてました(笑)。

 兜町界隈の様子や株式取引を描いた、獅子文六さんの小説「大番」は、映画化もされて非常に話題になった作品。徳川夢声さんの「問答有用」も当時としては珍しい、柔らかい対談の読み物でした。今も各誌で続くこうした週刊誌の流れは、名編集長と言われた扇谷正造さん時代に始まったものなんですよね。今も続く連載で思い出深いのが、山藤章二さんの「ブラック・アングル」。大学生のとき、広告研究会に所属していたんですが、当時はパロディーCMを作るのが盛んでね。実際に存在するものを“もじる”というパロディー手法の参考に、よく読んでいました。妹尾河童さん(「河童が覗いた仕事場」)は、実家暮らしのときの仕事場を描きに、確か取材で来てくださったんです。その場でさっとスケッチして、後から見たらすごく細かい見取り図になっててびっくりしました。

 開高健さんの「ずばり東京」も、ずいぶん読み込みました。オリンピック開催を前に変貌する東京を毎週取材したシリーズで、その観察力とエネルギーに圧倒されました。何と言っても表現が視覚的で、佃の渡しの船頭の語り口や神宮外苑のおでん屋台の客の会話とか、読むと自然と絵が浮かんでくる。美化された記録からは伝わってこない、昭和30年代のリアルで生ぐさい東京が見えてくるんです。今度のオリンピックはどうなるかわからないけれど、いちおう開催を控えたタイミングという意味では、今読むとおもしろいと思いますよ。

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