医学部入試の差別問題では、「医師になってから若い人より活躍できないので年齢も考慮すべきだ」、「女性は出産・育児を理由に当直から外れることが多いので仕方がない」といった声もあり、理由として納得した人が中にはいるかもしれません。しかし、例えそのような統計データがあったとしても、個々人に当てはまるかどうかは別の問題。少なくとも米国ではそのような考え方が「正しい」とされます。

 年齢であれ、性別であれ、予測はバイアスなんですね。何か不都合が実際に起きたり、実力に差が出たりした時点で処遇を変えればいいことなのです。

――なるほど。83歳という年齢だけをとらまえて、存在が害だと決めつけるのは乱暴だというのはわかりました。しかし今回、予測ではなく実際に問題が起きました。発言を撤回したとはいえ、公の組織のトップが「女性蔑視」の発言をしたというニュースが世界中を駆け巡り、批判にさらされています。

和田:そこが今回の問題の本質です。日本の組織は、いったん権力を握ったり、ポジションを得たりして、「実力者」になると、クビや降格にされにくいシステムなのです。日本社会のシステムのおかしさが、今回の問題で露呈したのです。

 大企業にはいまだに年功序列が色濃く残っています。日本の終身雇用は社員が忠誠心をもって働けるシステムともいえるし、一般労働者の雇用の安定につながるのでいい面もあると思いますが、長く組織にいた方が評価される年功序列の慣習には疑問を感じます。少なくともトップが固定化することに関しては、問題だと思います。もちろん中には実力があってトップに居続けるべき人もいますが。

 これは日本のあらゆる組織にあてはまることで、私が身を置く医学界も例外ではありません。日本の大学では医学部教授の言うことがいくらおかしくても、医局員は逆らうことはできない。「先生まずいですよ」なんて言ったら飛ばされるだけです。

 ですから、研究もバリバリして、優秀な40歳の医師が大学教授の役職につくことはまれなのです。現職教授の退官を待たねばなりませんから。欧米は違います。海外では教授になることは研究の本格的なスタートラインに着くことを意味しますが、日本は「上がり」のポジションなのです。これは、はちゃめちゃなシステムなんですよ。

 今回、関係者は誰も森さんに逆らえないでしょう? 間違ったことをした偉い人に逆らえないシステムはやはり問題だと思います。公的な性格のある組織は、トップは固定化せずにやめさせることができるシステムを作らないといけない。

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