■キモは感染経路の遮断
専門家はどう考えるか。感染症内科医の岩田健太郎・神戸大学大学院教授はこう説明する。
「隣の人も自分も一人でご飯を食べているだけなら、感染のリスクはほぼありません。もちろん、距離も大事ですし、居合わせた人たちとおしゃべりするような雰囲気が店内にできてしまうと、一人でもダメなので、そこは工夫が必要でしょう。要は、感染経路がきちんと遮断されているかどうかがキモです」
飲食時の人数や場所、時短要請の際の閉店時間として示されている午後8時以降かどうかではなく、感染対策がきちんと取れているかどうかが問題というわけだ。そういう意味では、どんな時間帯でも店内に「黙って一人飯」の客ばかりであれば、リスクは減ると考えても良さそうだが、完全にそうした環境をつくるのもまたハードルは高そうだ。
1月以降、「黙食」推進で注目されたのは、福岡市のカレー店「マサラキッチン」の店主、三辻忍さん(46)だ。
店ではもともと厳しめの対策をとってきて、マスクを持たない人の入店を断ったり、食事中以外のマスク着用をお願いしたりしてきた。今はより端的な言葉で訴えるために「黙食」という言葉を使っている。マスク着用の会話は許容しているが、食事中は完全に会話なしになる。
お客さんの反応や、今後の取り組みについて三辻さんはこう話す。
「お互いに顔を見合わせて『おいしいね』って表現している人なんかもいらっしゃって、制限がある中でコミュニケーションされているようです。いずれにせよ、お客さんの安心につながってはいるようなので、掲げたからにはコロナ禍が終息するまではやり続けます。そうでないと意味がありません」
(編集部・小田健司)
※AERA 2021年2月15日号