貯筋とは、貯金するように筋肉を増やして体に貯めていくアイデア。加齢により心身の活力が低下する「フレイル」を回避するためのキーワードになりつつある。この貯筋の提唱者にして、30年にわたって日本人の体力を計測してきた東京大学名誉教授の福永哲夫氏はこう語る。
「筋肉は、髪の毛ほどの太さの筋繊維が集合して形成されています。たとえば太ももの大腿四頭筋には、推定500万本の筋繊維が束になっています。同じ500万本でも、筋肉量が落ちれば筋繊維も全体的に細くなる。細すぎると、そのうち機能しなくなって歩けなくなります」
こうした状態が「フレイル」というわけだ。福永氏によれば、特に筋力低下のペースが速くなるのは50歳以降。上腕などの筋力はあまり落ちないが、腹筋、大腿四頭筋、ふくらはぎなどの筋力が顕著に落ちていくという。
「特に大腿四頭筋の筋肉量は、日常生活を送るだけでは1年間に1%ほど落ちる。つまり50~70歳の20年間で20%も落ちてしまうことになります。現代社会は科学技術が発達し、筋肉を使わない方向へ向かっている。普通に生活すれば自然と筋肉を使わなくなり、やがては動けない体になってしまいます」(福永氏)
筋肉量の低下は、運動不足だけではなく食生活によっても引き起こされるという。原宿リハビリテーション病院の稲川利光副院長がこう語る。
「運動不足と並ぶ筋力低下の原因は低栄養です。筋力を高めるたんぱく質や亜鉛・マグネシウム・鉄などの微量元素が不足する低栄養状態になれば筋力が低下するだけでなく、骨粗鬆症にもなりやすくなります」
筋力が低下すると転倒しやすくなり、骨粗鬆症になっていたら転倒時に骨折しやすくなる。骨折してベッドで寝たきりになれば、さらなる筋力低下につながるという悪循環に陥ってしまう危険があるのだ。
下肢の筋肉だけでなく、体幹の筋肉の衰えも、寝たきりにつながる要注意ポイントだという。
「体幹が衰えると、立った状態からスムーズに座ったり、座った状態をキープしたりといったことが困難になり、寝たきりになってしまいます。背もたれを使わず、床に足をついて最低30分間、座る姿勢を保てるかどうかが一つの目安。ちゃんと座れていれば、食事やトイレも問題なく行えます」(稲川氏)