発表は英語である。私は英語が超苦手なため、質疑応答で恥を晒す羽目になると思うが、そこはマンボウへの情熱でカバーする予定だ。英語の意味がわからなくても、発表者のスライドを何となく眺めているだけでも面白いと私は思う。なんせ、これまでマンボウ研究を進めてきた権威、これからの時代を担う若手が世界中から集まり、議論し合うめったにない貴重な機会だ。将来、ここに集まった誰がマンボウ研究上の敵となり味方となるかわからない。そういったドラマチックな人間模様も含めて、このシンポジウムがマンボウ研究の歴史的な1ページになるのは間違いないだろう。
なお、リアルタイムの方が臨場感が味わえるが、後日、YouTubeかホームページ上でシンポジウムの動画が見られるようにするとの話を聞いているので、無理して徹夜する必要はない。
■7年前からのフラグ?
本来ならこのシンポジウムはモントレーベイ水族館で開催される予定で、私も渡米したついでに各地の博物館を巡って、マンボウ類の標本調査をする予定を考えていた。しかし、新型コロナのせいで、オンライン開催になってしまった。世界中のマンボウ研究者たちと直接議論し合えないのは非常に残念であるが、新型コロナが世界で一番猛威をふるっているアメリカで、精力的に専門書を完成させ、今回のシンポジウムを企画したティアニーに最大限の称賛を送りたい。彼女はカリフォルニア科学アカデミーの研究員で、博士号取得後、1990年代からマンボウ研究を開始し、バイオテレメトリー分野で大きな功績をあげてきた人物だ。
私は大学院時代、2014年に渡米した際に、一度ティアニーに会ったことがあり、その時にマンボウの専門書をいつか作りたいねと一言話をした記憶がある。その時の私の言葉を覚えていたかどうかはわからないが、7年後の現在、マンボウの専門書は誕生した。何とも感慨深いものがある。
マンボウの専門書は300ページ以上の大ボリュームで、当然ながら英語で書かれている。手に取るハードルが高いため、日本の一般の方が一体どれだけ目を通してくれるかわからないが、私にとってはとても思い入れのある専門書である。まだ全部読めていないため、内容はまた後日詳しく紹介したい。
この専門書の企画は2018年9月に送られてきたティアニーのメールからすべてが始まった。私にとっては平成から令和へと時代が移り変わる中で進められた1つの企画である。ティアニーは一般の人にもこのシンポジウムに参加してもらい、一緒にマンボウへの理解を深め、楽しい一時を過ごして欲しいと願っている。次はいつ開催されるかわからない、専門家の話が無料で聞ける貴重な機会だ。私も是非多くの人に参加して欲しいと考えている。
●澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)やYouTubeで情報発信・収集しつつ、今年4月以降もマンボウ研究しながら生きていくためにファンサイト「ウシマンボウ博士の秘密基地」で個人や企業からの支援を急募している。