いつの時代も、若者の流行は理解しがたいものがあります。
フランス文学者・評論家の鹿島茂さんは、ここ数年、男子学生のあいだで流行っている垂れた前髪が気に入らないようです。ただ、なぜ、あんな髪型が流行になるのかと疑問を抱いている反面、自分たちも若い頃は同じように大人たちを不思議がらせた流行があったことを認めています。
そんな流行について鹿島さんは、「いったん流行が始まってしまったら最後、何人といえども流行に逆らうことはできないのである。よって、いずれ、前髪を上げるスタイルがはやれば、前髪を垂らしている学生は一人もいなくなるに違いない。しかし、それはそうとして、流行をはやらせた当人の思惑というものはある程度、推測することは可能である」と書籍『「悪知恵」のすすめ」』で持論を展開しています。同書は、17世紀の詩人、ラ・フォンテーヌが、イソップ物語をベースに書いた大人のための「寓話集」。
鹿島さんは、前髪を垂らしたスタイルは、それを流行らせた人は、きっと額にコンプレックスを持っていたといいます。つまり、それを隠すために、前髪を垂らし始めたのです。ラ・フォンテーヌも、「尻尾を切られたキツネ」(巻の五 第五話)の中で、こういった流行の「逆転の発想」について逸話を披露しています。
あるところに、尻尾のないキツネがいました。罠にひっかかった時に無理やり尻尾を引っ張ってしまい、切れてしまったのです。こんな姿では仲間の前に出ることはできないと悩み、ふと良いことを思いつきました。
「私たちのお尻についているこの尻尾なんですが、これって、まったく無用だと思いません?」他のキツネが集まる集会でこう提案したのです。続けて、泥んこ道を歩くと、放棄のように泥を掃除するだけで役に立っていない、皆で尻尾を切りましょうと言いました。
そしたら、一匹のキツネがこう答えたのです。
「ご提案、まことに結構、たしかに、その通りかもしれない。しかし、一つあなたにお願いがある。どうか、後ろをむいてお尻をこちらに見せてはいただけないだろうか? そうしたら、お返事しますよ」
これには、他のキツネたちは大笑い。尻尾のないキツネは引き下がることしかできませんでした。
人間の世界でもこういったことはよくあります。「尻尾を切ろう」と自分の都合を提案したキツネのような流行発信者は多いもの。そして、時には彼らの提案が却下されずに採用されることがあり、結果的に流行となるのです。
流行発信者の本来の思惑は、別のとこにあったということは、意外と多いのかもしれません。自分のネガティブ要素を隠すためだったり、私利私欲のためだったり......。それが故に、簡単に流行にのることは、注意した方がいいと言えるのです。