「食道がんには、下咽頭がんが合併しやすい。先に食道がんの放射線治療を受けると、照射範囲が一部重複するため、あとから起きた下咽頭がんに放射線を照射できず、手術で声帯を切除し声を失うこともあります」

 さらに大幸医師はこう続ける。

「進行がんでも手術と補助療法の進歩により長期生存が得られる時代になった。進行がんでも、二次がんを見据えた治療方法の選択が必要である。そのため、化学放射線療法は、手術を受けたくない場合のオプション治療であると思います」

■胸腔鏡・腹腔鏡手術でからだへの負担が小さくなる

 手術の内容は、I期もII期以降も同じで、食道切除、リンパ節郭清、食道再建がおこなわれる。I期でもリンパ節転移頻度は30~40%あるので、リンパ節を郭清する範囲は同じである。

 手術の方法には、開胸開腹手術、胸腔鏡・腹腔鏡手術、ロボット手術がある。ガイドライン上は開胸開腹が標準とされている。

 実際の治療についてはどうか。

「ロボット手術を含めた低侵襲手術が主流になりつつあります。とくにI期では、胸腔鏡・腹腔鏡手術がよい適応で、ロボット手術も年々増えています」(安部医師)

「開胸開腹手術をおこなうのは、がんが進行して多臓器に浸潤が疑われる症例で、執刀医が多角的に手で臓器に触れる必要がある場合」(大幸医師)

 大幸医師の国立がん研究センター中央病院では、80歳以上の高齢者には、食道切除と食道再建を2回に分ける低侵襲性二期分割手術をおこなう。年齢や体力・持病などで手術できないとされても、低侵襲であれば、手術で社会復帰できることもある。

 ロボット手術のメリットは、組織が胸腔鏡・腹鏡手術より拡大され安定した状態で見ることができ、操作性もよく、執刀医が手術しやすいことである。また、手術の精度が上がるといわれる。なお、手術後の回復などに大きな差はなく、保険診療の点数も現在は同じである。ただし、ロボット手術を実施する病院は、限られている。

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