去年の4月、安倍首相(当時)がコロナ禍での緊急事態宣言を発出した。そのとき、私は安倍首相に「他の国では緊急事態時に、違反すれば罰金を取られたり逮捕されたりする恐れがある罰則規定があるが、日本ではなぜないのか」と問うた。すると安倍首相は「日本国民は、割合に政府の言うことに素直に従ってくれるので、罰則規定など必要ないのだ」と答えた。
つまり同調圧力が強くて、国民が自主規制をしてくれる、ということだ。今回、なぜ罰則規定など設けなければならなかったのかは改めて問いたいところである。
同調圧力といえば、日本では新聞やテレビで思い切った権力批判ができず、マスメディアが自粛しすぎている、という批判が常識となっている。コンプライアンスのためというのがマスメディア側の説明だが、実は批判が怖いのである。
かつては電話だったプロデューサーへの批判が、現在ではインターネットによって管理部門からスポンサーにまで届く。下手をすると番組が終わる。だから、つい無難な番組を作ってしまうのである。
さらに重要なのは、日本の政治にも同調圧力があることだ。小選挙区制のために自民党の国会議員は執行部のイエスマンばかりになった。だから安倍・菅政権とも、国民とかけ離れた政治を平気で行ってしまっているのである。
※週刊朝日 2021年3月5日号
■田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数