池上:精神における怠惰、これは耳に痛い言葉です。

 例えば、コロナ禍なのに満員電車に揺られて会社に行きたくないと思っても、こんな状態だから出社したくありませんとはなかなか言いにくい。でも、緊急事態宣言が出ていれば、緊急事態宣言ですから出ないでおきますって言うと、これが認められてしまうということです。自分で責任を持って判断して何かを主張はできないけれど、政府が言っているから、ということなら言える。そういうことってありますよね。

■面倒くささを持つ

ヤマザキ:信じる、頼るって、実はすごく簡単なことなんですよね。例えばイタリア人などは日本人とは正反対で、ある意味、疑念で成り立っています。メディアで紹介されているのを見ると、誰も彼もがみんな見知らぬ人とハグやキスを交わして「さあ、うちにおいで」みたいな懐の広い人種だと思われていますが、そんな人そんなにいませんよ(笑)。面倒ではあるけど、こいつ大丈夫かなって、表も裏も吟味するっていうところから始める国民性です。そうやって自分たちの疑念を取り崩していきながら、やっと最後の信頼にたどり着くという感じです。

 オレオレ詐欺なんかも、1日に何度も家族同士で電話をしあっているイタリアの人たちにとっては理解不能でしょう。もっと疑い深く、疑念を持って、政府はこう言っているけど、本当にそれでいいのかとか、あの人はああ言っているけど、なんでそういうふうに言うのかとか、一つ一つに対して、ある意味言いがかりをつけるような面倒くささを持たないと、社会性の生き物として成熟できないんじゃないですかね。そういう私も何度か騙されてきてますけど(笑)。

池上:いわゆる日本人論って、これまでもいろいろ語られてきたでしょう。そういう本もいっぱい出版されていますし。でもそれは平時における日本人論でした。森発言もそうですが、コロナ後の新しい日本人論を私たちが改めて振り返りながら考える絶好のチャンスが来たのだろうなと思っています。

ヤマザキ:まさにそうですね。例えば、私の『テルマエ・ロマエ』っていう漫画では、古代ローマがどれほどすごい時代だったのかを描きたかったわけですが、そのままだと難しい西洋漫画として避けられてしまうかもしれない。でも日本人との共通の習慣であるお風呂を軸にしてみたら、皆さんに受け入れてもらえた。

 そういう方法ってどの国でもあると思うんです。日本人論や日本っていう国を考えるとき、いきなり、デンマークやノルウェーが実施しているような女性が優位に立って、男の人は料理もお掃除もできなきゃいけない、というような価値観を叩きつけるのは、ちょっと無理があるように思うのです。

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