「音楽って物語のページをめくるようなもの。村上さんの声を聴き、集中しました。ギターは触るだけで繊細な音が出せるから朗読のバックに向いている」と村治さんが振り返った。「朗読は8分。話の行間に(ブラジルの)ヴィラ=ロボスからメロディを引用して膨らませました」と村治さんが言うとおり、音楽が物語ならばギターのアルペジオ奏法は一枚一枚ページをめくる指先にも似ている。
「村治さんは歌うようにメロディを奏でる。クラシック系のギタリストには、歌うような演奏を恐れる人もいるけれど彼女は恐れない。大西さんやリサさんとどんな演奏をするのか、想像もつかない」と春樹さんは語ったが、彼女の演奏には覚悟と気合が感じられ、美しい音の痕跡を聴衆の心に残した。全員が揃ったアンコール『イパネマの娘』ではソロも先駆け、山下洋輔さん、大西順子さんが続いた。
コロナ禍の今こそ「愛が大切」という春樹さんの気持ちに応えたい一心で何カ月も前から準備した。ライブ後は余韻に浸るというより放心し、何も手につかなかった。
春樹さんと僕らは昨年暮れに「何が世界を救うのだろう?」とメッセージを発したけれど、JAMに寄せられた反響に音楽が多くの人の癒やしになることを改めて知った。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年3月5日号
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