だいたい曲から浮かぶんですが、歌詞を書くのは本当に時間がかかるし、ぐったり疲れます。
──父親の仕事の関係で幼少期はロシアやイランで過ごした。帰国後は不登校となり、地元のフリースクールに通うなか、16歳のときにバンドを組んだ。音楽の道に入るきっかけだった。
折坂:音楽じゃなくてもよかったのかもしれないけど、表現したい欲求みたいなものはもともとすごくあった。最初は人の歌のマネっこをして歌っていたんですけど、だんだん自分でも作りたくなってきて作曲を始めて。でも、フリースクールでやっても、あんまり反応が貰えないんですよ。「ああ、やってるね」みたいな感じで(笑)。自分を知らない人が、自分の作る音楽を聴いたらどう思うんだろうとずっと思っていて、20代前半のころ初めて東京・三鷹の「おんがくのじかん」というライブハウスの、誰でも演奏ができるイベントに弾き語りで出ました。すると意外なほど面白がってもらえて。自分にとってそれはすごく革命的なことだった。人間、褒められると嬉しくなって調子に乗るじゃないですか(笑)。そこからどんどん音楽にのめり込んでいきました。
──すぐに音楽業界に注目され、2018年には平成元年生まれの折坂が極私的な目線で平成という時代を切り取ったアルバム「平成」をリリースし、「本屋大賞の音楽版」と言われる「CDショップ大賞」を受賞した。取り巻く環境は変わっても、自分の中から溢れ出るものは変わらない。
折坂:ドラマや映画の主題歌なども経験して、自由に作っていたころとはすごく変わった気もしていたんですけど、最近、昔の音源を聴き直したら、今やっている歌とテーマが変わらないことに気がついて。音楽を始めた頃は、一定の音楽ばかりを聴いたり生んだりする場で楽しんでいた。そういうコミュニティーは楽しいし大事ではあるんですけど、自分と全く違う生活をして、全く違う価値観で生きている人にも届くような歌を作りたいという思いが根っこにあるんです。