■家族の安心のために親の死後の準備を
介護が始まると、嫌でも親の死を覚悟しなければならなくなる。亡くなる間際の看取り、葬儀、埋葬と慌ただしく時が過ぎ去るなかで、死後の事務手続き(死後事務)を進めなければならず、悲しみにひたる時間さえないかもしれない。
「そんなことを考えるなんて縁起でもない」と思うかもしれないが、親の死に向けた準備が死後事務や相続の手続きを円滑にしてくれることは間違いない。親が死後事務のためのお金を用意してくれていれば、葬儀・埋葬費用などの支払いもスムーズだし、実家の整理にかかる費用もそこから工面できる。
例えば葬儀費用だと、火葬式で10万~20万円、一般葬で100万円前後、献花・祭壇や斎場などにこだわれば数百万円かかる可能性がある。埋葬料は、最近増えてきた海洋散骨や樹木葬でも30万~50万円、遺品整理も業者などに頼めば数十万円、デジタル遺品整理だけでも5万~10万円くらいといわれている。
こうした費用は相続財産から支払うこともできるが、相続手続きが終わるまでは家族・親族が立て替える必要がある。誰が支払うかで揉めることもあり、それがきっかけで相続争いに発展するケースもあるから注意が必要だ。埋葬料や葬祭費、未支給年金など、亡くなった際に受け取れる給付金もあるが、決して十分ではない。
親の介護とその先にある死は決して他人事ではない。早めに現実的な備えと心づもりをしておきたいものである。(文・田中弘美)