次に、電力会社と規制当局の信頼性の問題。福島第一原発の現場で活躍したエキスパート木村俊雄氏は、今から30年前、腐食した配管からの冷却用海水の漏出により、非常用ディーゼル発電機が水没し機能を失う事故を経験した。まさに10年前を彷彿とさせる事故だ。木村氏は「津波による事故の解析をすべき」と上司に進言したが、「津波の想定はタブーだ」と退けられた(木村俊雄『原発亡国論』<駒草出版>)。そのときに真剣に対応していれば、11年の事故は防げたかもしれない。最近、東電で大変な不祥事が続いたが、再稼働推進のために原子力規制庁がそれを隠蔽したこともわかった。電力会社と政府の隠蔽体質は30年経っても不変。木村氏の言葉を借りれば、原発の安全性は「眉唾物」なのだ。

 だが、最近、地球温暖化対策のために原発を新増設しろと経済界が強く要求し、政府も秘かにそれを狙っている。しかし、彼らを信じてはいけない。

 今こそ、樋口・木村両氏の話とともに、10年前を思い出すときだ。巨大津波、メルトダウン、水素爆発……。当時、私たちは、「原発はもういらない」と思った。今こそ、それを実行に移すときだ。

週刊朝日  2021年3月19日号

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)など

著者プロフィールを見る
古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

古賀茂明の記事一覧はこちら