「一家の中に誰もが自分の家族を見いだす物語」と高評価を得て、全米の様々な映画賞で次々と賞を受賞した「ミナリ」。今月発表される第93回アカデミー賞ノミネートでも作品賞、監督賞、助演女優賞などが確実視されている。
1980年代、農業で成功することを夢みる韓国系移民のジェイコブ(スティーヴン・ユァン)は、アメリカ南部のアーカンソー州の高原に、家族と共に引っ越してきた。荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを見た妻のモニカ(ハン・イェリ)は、いつまでも心は少年の夫の冒険に危険な匂いを感じるが、しっかり者の長女アン(ネイル・ケイト・チョー)と心臓に病を持つ好奇心旺盛な弟のデビッド(アラン・キム)は、新しい土地に希望を見つけていく。
やがて毒舌で破天荒な祖母(ユン・ヨジョン)も加わり、デビッドと一風変わった絆を結ぶ。しかし、水が干上がり、作物は売れず、追い詰められた一家に、思いもしない事態が立ち上がる──。
本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点)
■渡辺祥子(映画評論家)
評価:★★★★
米国に来た韓国移民夫婦の間に生じる思惑の食い違いがほろ苦い。夢を追う夫、子供2人を抱えて平凡な生活を望む妻。あとから加わる祖母の家族への思い。そこで起きる衝撃の出来事によって、家族の絆はより強まりそうだ。
■大場正明(映画評論家)
評価:★★★★
監督の想いが込められた半自伝的物語と俳優陣の自然体で感情豊かな演技。大地や見えない世界や変わり者へのこだわりに表れた女性作家フラナリー・オコナーの影響が、ドラマに深みを生み出しているところも見逃せない。
■LiLiCo(映画コメンテーター)
評価:★★★★
不思議な魅力を持つ一本。この家族の日常に釘付け。それぞれがみんな努力してるからでしょう。そしておばあちゃんの登場で可笑しくなったり、とんでもない方向に。最後はさまざまな感情が入り交じった優しい涙でした。
■わたなべりんたろう(映画ライター)
評価:★★★★
監督の自伝的内容で、アメリカへの移民の話ながら、誰もが心の奥底に抱えているアイデンティティーと家族に関してを、今までにない視点と奥深さで描く。その考察力とバランス感覚が絶妙かつ、とても新鮮で琴線に触れる。
(構成/長沢明[+code])
※週刊朝日 2021年3月19日号