原作は映画化され、雑誌に多くの連載を抱え、大忙し。今ブレーク中の女性作家たちには、実は意外な共通点があった。
映画は大胆かつ奇妙なベッドシーンから始まる。
高校1年生の卓巳が、コミックマーケット会場で知り合った主婦の里美と情事を重ねる。夫のいない、昼下がりの自宅寝室。里美はアニメキャラクターのコスチュームをまとい、自作の台本どおりに交わるよう卓巳に強いる――。
昨年11月公開のタナダユキ監督「ふがいない僕は空を見た」(以下、ふがいない)は、主演した田畑智子(32)の濃厚な濡れ場が話題を集めた。18歳未満お断りの「R18+」に指定されながら、映画館には多くの女性客が足を運んだ。
今年2月封切りの竹中直人監督「自縄自縛の私」(以下、自縄自縛)は、自分自身を縄で縛るのが趣味という女性会社員が主人公で、こちらも「R15+」指定作品になっている。宣伝戦略は明らかに「女子目線」を意識し、特別鑑賞券のオマケには赤いひもを体に巻いた“キューピー人形”がついていた。
これら二つの作品の原作者は、新潮社が2001年に創設した公募型新人賞「女による女のためのR-18文学賞」(以下、R-18文学賞)の大賞に輝いた人物たちだ。いずれも受賞作でデビューしている。
『ふがいない』の作者は09年の第8回大賞に輝いた窪美澄さん(47)。この作品で新人ながら第24回山本周五郎賞を獲得し、11年の本屋大賞の2位にも選ばれた実力派だ。
1人目の子を幼くして亡くした。育児雑誌などでの編集者やライターとして働いていたが、ノンフィクションで表現することに限界を感じ、35歳で小説家を目指した。一人息子を育て上げたシングルマザーでもある。
『自縄自縛』を書いた第7回大賞の蛭田亜紗子さん(33)が、初めて小説を書いたのは15歳のときだった。東京の大学に進んだが、「人が多すぎて、働くのはちょっとしんどい」と、就職するタイミングで故郷の北海道へ戻った。広告会社にコピーライターとして入社したが、クライアントや大勢の人との調整が求められる業界が肌に合わず、体調を崩したのを機に27歳で退社。そこから再び小説を書き始めている。2年前に結婚、現在は18歳年上の夫と猫1匹と暮らす。
最近、国内では、小説や漫画を映画化する「メディアミックス」が活発だ。昨年はヤマザキマリの漫画『テルマエ・ロマエ』や和田竜の小説『のぼうの城』などがあるが、そうした流れのなかで「R-18文学賞」の受賞作も銀幕に登場している。
「自縄自縛」の企画と制作にかかわった映画プロデューサーの奥山和由さん(58)は、「原作に描かれているセックスの表現には、これまでの倫理観に縛られない自由さが溢れていた。へぇ、女の子ってこんなことを考えているんだ、と。映画の作り手の“作家性”を刺激するディテールに満ちていました」と絶賛してやまない。
奥山さんには、かつて女性向けに官能映画を作ったが、中高年男性客しか集まらなかった苦い経験がある。
テレビや広告会社を巻き込むメディアミックスは、スポンサーへの配慮から「性」や「暴力」を描きにくいとも言われる。「このままいくと映画の表現範囲が狭められるのでは」と危惧していたときに「R-18文学賞」の受賞作を読んだ。
奥山さんの思いに同調するように、映画制作に力を入れ始めた吉本興業が昨年、新潮社と「文学賞を協賛する代わりに、受賞作を優先的に映画化する」との契約を結んだ。「自縄自縛」はその1作目だ。
※週刊朝日 2013年5月17日号