公務員の共済年金と会社員の厚生年金の統合が決まり、準備が着々と進んでいる。一見すると官民の格差是正の様に思われるが、実はこれ、「官による民へのたかり」だという見方をする専門家もいる。

 官民の年金を比べた時の「格差」とは。国家公務員の共済年金は、保険料率(16.216%)は会社員(16. 766%)より低いのに、年金の平均受給額(月21万4千円)は5万3千円も高い。現役世代が払う保険料が少ないのに、リタイア組がもらう年金が多い。そこで、公務員(国・地方)の制度を会社員に合わせることが打ち出され、昨年8月に、私学共済も含めた3共済と厚生年金を統合する「被用者年金一元化」の法律が成立した。

 これだけ見れば「公平になるのなら良いことじゃないか」と納得してしまいそうだが…。

「財政破綻を目の前にした官(公務員)の年金を、民(厚生年金)に救済させるのが狙いです。たかり、と言ってもいいかもしれません」

 今回の一元化を強く批判するのは、元立正大学大学院教授で国際年金比較研究所理事長の渡部記安(わたなべ のりやす)氏である。

 渡部氏が着目するのは「年金扶養比率」というデータ。1人の年金受給者を、何人の現役世代で支えているかを示している。厚生、共済年金ともに、現役の保険料で年金給付を賄う「賦課方式」をとっているので、支える側の現役が多ければ多いほど、現役一人当たりの保険料負担は軽くなる。

 国家公務員の共済年金を見ると、2011年度末の年金扶養比率は1.52。危険水域と言われる2を割り込んだ1995年度から、さらに0.5近く下がっている。「行財政改革や人口減少で公務員の数が減る一方、高齢化で受給者の数は増えていることが影響しています」と渡部氏。今後もこの傾向が改善するとは考えにくく、50年度には1.16になり、地方公務員を合わせれば65年度に1を割り込むと試算されている。

 一方で、厚生年金の11年度末の扶養比率は2.33。こちらも15年前に比べて半減しているが、公務員より余裕がある。50年度の見込みは1.39だ。

「このままだと公務員の年金は、5年後には実質的に運営できなくなる可能性もある。大幅に負担が増えたり給付が減ったりする事態を避けるために、慌てて対処したというのが一元化を進めた背景でしょう。労組の焦りが民主党政権を動かしたと言えるかもしれません」(渡部氏)

AERA 2013年5月20日号