■万引き防止のイメージキャラクター
コロナ対策の「マンボウ」はまだ話題になって日が浅いため、イメージキャラクターは発案されていないが、「万引き防止」(略して万防)のイメージキャラクターとして“マンボウ”を起用している地域がいくつかある。
青森県では県警の万引き防止マスコットとして「マンボウくん」と「マービーちゃん」というキャラクターが作られ、和歌山県では県警の万引き防止オリジナルキャラクターとして「まんぼうくん」が作られた。宮城県では県警の万引き防止マスコットとして「マンボウ(万防)」というキャラクターが作られ、県警ホームページにはそのフェルトぬいぐるみの作り方や万引き防止テーマソング「マンボDEマンボー」の歌詞が載っている。
高知県では高知市少年補導センターが万引き防止の合言葉として「マンボウのさしみ(させない・しない・見逃さない)」を“マンボウ”のイラストとともに市内の義務教育学校に伝えている。福岡県では福岡県書店商業組合が万引き対策として、「まんぼうシール」という“マンボウ”をモチーフにした絵の販売証明シールをつくり普及させよう試みたが、自分が買った新品の本の表紙に否応なくシールを貼られる制度が不評で2年後に廃止された。
まだ他の地域でも万引き防止と“マンボウ”を掛けたキャラクターや試みがあるかもしれない。
■“マンボウ”の民俗と疫病
ここまでは単なる政策の略称と魚類の名前の掛け言葉の話だったが、“マンボウ”の民俗の中には、疫病と関連付けられた知見もある。タイムリーなところでは、去年、コロナ禍で偶然発見され、和歌山市立博物館で展示された江戸時代後期のものと推定されている「疫病除ヶ」と書かれた“マンボウ”の木版画が挙げられる。同じく江戸時代後期のものと推定されている書物『ま免なくさ』にも長崎県でマンボウ類を疫病除けに使っていたという一文が記されている。
逆に、昔の瀬戸内海では“マンボウ”が獲れると疫病が流行ると忌み嫌われていたとする知見もあるが……既に掛け言葉として使われているように“マンボウ”は現世におけるコロナまん延防止のイメージキャラクターとして適任であると思われる。私は政府に推すぞ!
【主な参考文献】わかやま新報.2020.マンボウで疫病退散? 和市立博物館の木版画話題.わかやま新報(2020年9月11日配信).
前田倫之.2021.マンボウが政権の吉兆占う?いまや官邸の共通語.西日本新聞(2021年3月1日配信).
●澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)やYouTubeで情報発信・収集しつつ、今年4月以降もマンボウ研究しながら生きていくためにファンサイト「ウシマンボウ博士の秘密基地」で個人や企業からの支援を急募している。