東京五輪の開・閉会式の演出担当者が渡辺直美さんへの差別的言動のため辞任した。発言と社会の受け止めから見えるのは、差別についての議論と認識の乏しさだ。AERA 2021年4月5日号の記事を紹介する。
【写真】パリで開かれたボディポジティブをテーマにしたファッションショー
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東京五輪・パラリンピックをめぐって、またもや日本社会の「常識」が疑われかねない事態が起きた。開・閉会式の演出を統括する佐々木宏氏が昨年3月、演出を担うチーム内のLINEに、タレントの渡辺直美さんを豚に見立てた演出を提案していたのだ。
この事実を報じた週刊誌の発売日の3月18日、佐々木氏は謝罪文を提出して辞任。女性蔑視発言で、一度は会長職にとどまろうとして辞任に追い込まれた森喜朗・前大会組織委員会会長の「反省」を生かしたかのような素早い対応だった。
テレビのワイドショーなどでは佐々木氏の提案内容に関する議論よりも、「LINEの情報が流出したことが問題」との指摘が相次いだ。ツイッターには「渡辺さんは自分で豚役もしていた」「渡辺さんならカッコいい豚をやってくれたと思う」といった佐々木氏の演出案を擁護するような意見も目立つ。
■痩せ形至上からの解放
渡辺さんは19日、YouTubeのライブ配信でこんなメッセージを流した。
「私はこの体のことをポジティブに伝えてきたつもりだった。あと芸人という仕事もね。ポジティブにいろんなことができるんだぞ、と。『芸人のくせに』とか、『デブのくせに』とかじゃなくて」
渡辺さんが放つ「ポジティブ」という言葉には特別な意味が込められている。渡辺さん自身の芸能活動や生き方の指針であるとともに、コンプレックスに悩むすべての人を鼓舞する力強いメッセージでもある。
インスタグラムでフォロワー数939万人を誇る「インスタの女王」の渡辺さんに対する支持や共感は、単なる「お笑いタレント」という枠には収まらない。「ボディポジティブ」というムーブメントで、渡辺さんは世界的なアイコンなのだ。