「私、彼がコンビニとかでバイトでも日雇いで働くでもするなりして、月10万円でも家計に入れてくれていたら、離婚までは考えなかったと思うんです」

 男性だから稼いで当然、と思っていたわけではない。男女どちらでも、稼げるほうが稼げばいい。それが珠子さんの考え方だった。

「でも、私が子育てであまり稼げない状況なのであれば、じゃあ、次はあなたの番よ、と思うわけじゃないですか。それなのに、彼が必死になって家族を守ろうとしてくれないことが悲しくて、人として尊敬できないと思いました」

 要するに、ビジネスやお金だけの問題ではなかった。武司さんの生き方に、珠子さんは失望したのだ。

 珠子さんは、武司さんが温泉に行っている間、これからどうすべきかを考えた。そして、「離婚」という結論に達した。こじれた仲は、大きく環境を変えなければ絶対に変わらないと確信した。

 もちろん、迷いはあった。しかし、別居という中途半端な選択肢は、珠子さんの中にはなかった。

「離婚して後悔したら、また結婚すればいい、と。とりあえず、いまの関係性を変えたかったんです」

 武司さんの荷物をまとめ、義理の実家に送り、温泉から戻ってきた武司さんに離婚を告げた。武司さんはごねず、珠子さんの決断を尊重してくれた。

「私のこと、一度決めたことは絶対に翻さない女だってわかっているから(笑)。でも、きれいに別れられたことで、いま、ビジネスも子育ても一緒にできるいい関係がつくれているのだと思います」

 離婚してから武司さんは、自分の興したビジネスに、本格的に取り組んだ。

「彼が話してくれたんですけど、離婚してから娘に会ったとき、お金がなくて、娘にせがまれた500円のいちごを買ってやれなかったんだそうです。たった500円のいちごすら、かわいい娘に買ってやれない父親としての自分のふがいなさに、本当に情けなくて、そこから初めて本気になったんだそうです」

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「いまはめちゃくちゃ尊敬しています」