和田秀樹さん(左)と中野信子さん (撮影/写真部・高野楓菜)
和田秀樹さん(左)と中野信子さん (撮影/写真部・高野楓菜)
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中野信子さん (撮影/写真部・高野楓菜)
中野信子さん (撮影/写真部・高野楓菜)

 精神科医の和田秀樹氏は、新型コロナウイルスの影響から自殺者が急増すると予測していた。ふたを開けてみれば、微増にとどまった。一体なぜなのか。脳科学者の中野信子氏と語り合った。

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>>【前編/コロナよりも怖い日本人の「正義中毒」 和田秀樹×中野信子が解説】より続く

*  *  *

和田:コロナのために、日本の抱えている問題点が次々にあらわになりました。その中でひとつ、興味深いものがあって。僕は去年、自殺者が急増して、また3万人を突破する(注1)と考えていました。経済的な状況が悪化。家にこもることでセロトニンの出が悪くなる。他人に泣き言を言えない。一人酒が増える。治療が必要でも感染が怖くて病院に行かない……。これだけの悪条件がそろえば、自殺者が大幅に増えると心配したんです。

中野:でも実際は……。

和田:前年と比べて912人増えただけの2万1081人でした。なぜなんだろうと考えて、仮説を導きました。テレワークなどをすることで、対人ストレスから解放されたからではないか、と。

中野:自殺を試みる人が多いのは月曜の朝や月の初めと聞きます。会社や学校へ向かう苦痛から逃れるためだと考えられていますが、それがなくなったというのが先生の見立てですね。

和田:会社に行かなくていいことで、9千人が自殺を踏みとどまったというのであれば、働き方を根本的に変えればいい。会社で人と接するほうが好きだという人は、会社で働く。それが合わない人は、テレワークをする。そういう発想で働き方改革を進めてほしい。

中野:私はこの時期に本をたくさん読むことができました。この機会に、自分とは違う考えの人の書いた本をあえて読んだらいいと思うんです。ネットでも、関心のない分野の記事を読む。そうすることで、自分の考えが絶対正しいというわけではないことを理解できます。正義中毒から解放されるきっかけになるのではないでしょうか。

和田:コロナのワクチン接種が始まりましたが、ワクチンが普及しても、死者は出ると思うんですね。実際、インフルエンザがそうでしょう。感染症とはそういうものだと冷静に受け止めて、行動したいと思います。

(構成/本誌・菊地武顕)

(注1)日本の自殺者は、1998年から2011年まで3万人を超えていた。その後減少傾向が続き、19年は2万169人。20年は11年ぶりに増加し2万1081人に。

中野信子(なかの・のぶこ)/1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授。最新の脳科学・脳認知学の成果をわかりやすく解説することに定評があり、テレビ「ワイド!スクランブル」金曜コメンテーター。多数の著書があり、今月、『生贄探し暴走する脳』(共著)刊行予定。

和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大学附属病院精神神経科、老人科、神経内科で研修。現在は国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長などを務める。心理学や受験指導に関する書籍を多数執筆。今月、『孤独と上手につきあう9つの習慣』が文庫化予定。

週刊朝日  2021年4月16日号より抜粋