そして、九時五十分近く、別れの時が近づいていた。小倉さんははたして何と言って締めくくるのだろうか。
正確ではないかもしれないが、私の記憶では朝、フジテレビに向かう車の中から見た徐々に明るくなる朝焼けの美しさと、フジテレビ屋上の球形のシンボルをカメラに収めようとしたが、どうしても写らなかった……という小倉さんの言葉から万感の想いが伝わって来た。
飾らない人柄とどこか素朴な匂いを残し、いたずらっ子のような純朴な目、小倉智昭という人がいたから二十二年もの間、続いたのだ。結局、番組は知識でも情報でもなく、人そのものなのだ。
短い間だったが、御一緒できてよかったと思う。
沢山の番組が変わり、司会者やレギュラー出演者交代が告げられた。几帳面にお礼をスタッフや視聴者に言うだけの人が多い中で、小倉さんの挨拶が心に残った別れの季節であった。
※週刊朝日 2021年4月16日号
■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『人間の品性』ほか多数