子どもの場合は発達障害による注意力の欠陥、コミュニケーション能力の低さがAPDの原因にもなりますが、そればかりではないと小渕さんは言います。

「音に注意する力や、相手の話を記憶しながら聞いていく力が人より少し弱いという場合もあります。原因はお子さんによって違っているのです」 

 APDと気づいた場合、どんな治療法があるのでしょうか。

「APDの人の場合、聞く力は正常です。静かな環境で話す、大事な指示はメールやメモで伝えてもらうなど、環境の工夫などで乗り越えることは可能です」

 サポート機器としては、音声の送受信機が役立つそうです。

「小学2年生のBくんの場合、先生がマイクのついた送信機をつけて授業し、Bくんは受信機で聞き取ります。それでも教室がざわつくと聞こえなくなるので、まわりの席の子が『静かに』と合図するなど、クラス全員がBくんに協力しています」

 補聴器やノイズキャンセリングヘッドホンも、人によっては有効なこともあるそうですが、本人が「聞き取りが苦手」という特性を自覚し、困難を減らす工夫をすることがもっとも重要だと小渕さんは言います。

「冒頭に登場したAさんはいま、少人数で授業することが多い特別支援学校の教員を目指そうと気持ちを切り替えました。困難を持つ子どもたちの教育に、Aさんの経験はきっと役立つのではないでしょうか」

<APDの4つのタイプ>

(1)脳損傷タイプ……脳梗塞や脳出血などのダメージが原因
 脳がなんらかの損傷を受けたことで、音を聞き取る聴神経などの機能が片側だけダメージを受けた場合。両耳だと言葉の意味がまったく理解できないこともある。CTやMRIなどの検査で脳のどこに障害があるかわかる。

(2)発達障害タイプ……認知機能の発達がアンバランスな場合
 自閉スペクトラム症やADHD(注意欠陥多動性障害)などがあると、耳からの情報を認知する力が弱い傾向が。また、注目すべき音にうまく焦点をあてられない、相手の言葉の意図を推測できないなども聞き取れない要因に。

(3)認知的な偏りタイプ……不注意・記憶力が弱いと聞き取りが難しくなる
 発達障害ほど認知的なアンバランスがあるわけではないが、ちょっとした不注意や、記憶力に弱さがあるケース。相手の話に注意を向ける力、話の内容を理解しながら記憶していく力が弱いためAPD症状が出やすくなる。

(4)心理的な問題タイプ……ストレスによって突然APDを発症することも
 あるとき突然聞こえなくなった場合、大きなストレスがあるなど、なんらかの心理的な要因が考えられる。不安があって何を聞いてもうわの空になってしまう場合も。ストレスの原因がなくなるとAPDの改善が期待できる。

【監修】
小渕千絵(おぶち・ちえ)さん
国際医療福祉大学成田保健医療学部言語聴覚学科教授・言語聴覚士

(文/神素子)
※『「よく聞こえない」ときの耳の本 2021年版』から

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