「ドップラー風ライダー」という装置を搭載した衛星を使って、高度分布を含む3次元の風のデータを観測できるようになれば、より効率的な航空ルートが作成でき、航空燃料の節約にもつながる。大学院で流体力学を専攻した松本さんのこのアイデアが、内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S‐Booster」の17年の大賞に選ばれた。現在、JAXAとタッグを組んで衛星開発に向けた検討を進めている。

「衛星データを活用することで航空機の安全やコスト、環境にも寄与し、航空会社のサービスや利益向上に還元できます」

■10年以内に本格参入

 ほかにも松本さんは、衛星データをAIで画像解析して乱気流を予測する実証事業などを次々軌道に乗せてきた。

 宇宙ビジネスの可能性を肌で感じてきた松本さん。彼女がコロナ禍の前から最も重要と考えてきたのは、「社内に味方を増やす」ことだった。グループの命運をかけて宇宙事業に参入する日が近い将来必ず来る、と確信しているからだ。

 その牽引役を担うのが、今回宇宙事業チームのリーダーに抜擢された鬼塚慎一郎さん(41)だ。全日空商事出身の鬼塚さんはビジネスの視点から宇宙の魅力をこう語る。

「誰も手をつけていない分野、手をつけたくてもつけられない分野で、今後大きく流れが変わっていきそうな事業領域は私の中では宇宙でした」

 鬼塚さんは、ANAHDが「S‐Booster」のスポンサーとなるよう了解を取り付け、これを足掛かりに宇宙ビジネスの人脈を構築していった。日本発の宇宙旅行の拠点となるスペースポートの設置を目指し、18年に設立された一般社団法人「スペースポートジャパン」の理事にも就任。19年には、ボーイング747型機からのロケット打ち上げを成功させた米国の宇宙開発会社「ヴァージン・オービット」と日本・アジア展開に関するパートナーシップ契約の締結にこぎ着けた。

 鬼塚さんは言う。

「日本の宇宙産業の発展には、ロケットの発射事業者の不在がネックでした。この課題を克服できれば、ビジネスとして成立すると考えました」

 とはいえ、ANAHDのタイムスケジュールでは、宇宙事業への本格参入は「202×年度」がメド。つまり、10年以内に、というスパンだ。

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