2022年4月、近畿大学が「情報学部」を開設予定だ。初代学部長には「プレイステーション」の開発にかかわった久夛良木健(くたらぎ・けん)さんが就任予定で、昨年、同大学情報学研究所所長に「iモード」の父・夏野剛(なつの・たけし)さんが就任した。AERA 2021年4月19日号では、革新をもたらした二人に単独インタビュー。いま求められる学生像とは。
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――従来の大学入試とは異なる試験も予定している。情報学部長代理に就任予定の井口信和教授は一般入試や総合選抜型のAO入試のほか、大学側からスカウトする仕組みも検討していると明かす。その狙いは、教授の“弟子”ではなく、社会のニーズに合う学生を育てることにあるという。
久夛良木:学生たちには未来を思考してほしいんです。大人の世界で言えば、DXが社会の課題の一つになっていますが、DXに取り組んで終わりでは意味がありません。何のためにDXするのかを考えながら未来を作っていかないといけない。それには好奇心や妄想力、自ら考える力をトレーニングしておくことが重要です。
社会には一つの課題があるのではなく、たくさんの課題が複雑に絡み合って存在しています。大人の事情や利害関係、物事を変えるための順番や法体系を見直す必要もある。一気にラジカルな変革を狙っても、周囲の理解がない状態だと崩れてしまいます。
夏野:そうですね。
久夛良木:ソフトウェアを作るときも、まずはアーキテクチャーを考えます。全体の構造を大きな枠組みで捉えて、どういう形で融合できるのかを想像する。ビジネスにも政治にも言えることで、アーキテクチャーの上に共通のフレームワークやプラットフォームがあることで、世界中の人が互いの文化圏や共通認識、価値観を理解しあえる……なんてことを話していると、1時間でも2時間でもしゃべりたくなっちゃうんですよね(笑)。
しちゃいけないが多い
――目標とする教育像がある一方で、日本社会に停滞も感じていると話す。
夏野:一番の課題は、人材の流動性が低いことです。22歳で選んだ会社に勤め上げる人がいること自体は悪くありませんが、みんなが同じ会社に居続けるのは異常です。人材がたこつぼ的になっていることは最大のハンデで、同じような人で構成されている産業は進化しません。
久夛良木:その進化しない原因の根幹の一つには教育があります。日本は世界で類を見ない「しちゃいけないこと」がたくさんある国です。20世紀に決めたルールが今も続いていて、それに対してチャレンジしようという意欲が湧きにくい。なぜなら、チャレンジが素晴らしいことだとこれまで教えてこなかったからです。教育者にとってチャレンジする生徒ってとても面倒臭いんです。
夏野:教育産業もマルチキャリアであっていい。少なくとも情報学部では、アカデミズムと実業の垣根を取り払うことで、大きく前進すると考えています。