利確といえば、こんな会社員もいる。
都内の電機会社に勤める男性(58)は、DC口座に積み上がった約2千万円を預金にしている。むろん、会社の拠出金だけで、こんなにたまるはずがない。新型コロナで相場が急落する前に全額を利確したのだ。
「うちの会社も00年代前半に退職金制度の変更があり、私はそれまでたまっていた原資を全部DCに移しました。運用が上手なわけではありません。株式や債券など四つの商品を選んでほったらかしにしていたら、勝手に2倍近くになっていたんです。運がよかっただけです」
ただ、利確したとはいえ、老後にかかるお金を考えるとしだいに不安が募ってくる。
「やっぱり、もっとためたい。どこかのタイミングで再び、投信にかえようと思い始めています」
男性の年齢を考えれば、もう無理をする必要はないとも思えるが、それはともかく、男性の希望の道を探ることは、これまで何も考えずに元本確保型で資産を積み上げてきた「預金組」の挽回可能策を考えることと、ぴったり重なる。
預金組はそれを投信にかえる手はあるが、一度に大きい金額を動かすと相場が下落した場合に致命的な打撃を受ける。先の加藤氏は、それを避ける手法として「一つだけ道はある」と“裏技”を披露する。
「自分のDC口座で小刻みに預けかえ(スイッチング)をすればいいんです。例えば、世界株式の『インデックス投信』を選んだ場合、毎月1回など定期的に預金の一部をその投信にかえていくのです。10回に分けてもいいし、100回でもいい。時期を分散させてかえれば、毎月の積み立て投資と同じ状況を作ることができます」
実は冒頭の女性は、この方式でDC口座の中身をかえた。
「30万円ずつ、十数回に分けました。自分でやると、価格が下がると口数を多く買えることも実感できるので、昨年の株価の暴落時も動揺することなく過ごせました」
なるほど、「手動」でもDCの中身をかえることができるわけだ。ならば、預金組でも間に合う人が大勢いる。「根気強い性格」という条件がつくが、検討する余地はありそうだ。(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2021年4月23日号