2020年に世界中に感染が広がった新型コロナウイルス。中国では伝統医学である中医学と西洋医学を併用し、新たに開発した処方でコロナ重症化を防いだという。一方、日本では西洋医学中心の治療のままだが、今後、予防や回復において、漢方薬への注目が集まっている。週刊朝日ムック「未病から治す本格漢方2021」で取材した、ウイルスを迎え撃つ元気なからだを維持する漢方の基本的な考え方を紹介する。
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多くの読者の関心はコロナに感染しないための予防だろう。修琴堂大塚医院院長で、コロナの治療・予防・後遺症の治療にあたってきた渡辺賢治医師はこう話す。
「漢方は、あらゆる病気を発症前に未然に防ぐ、健康と病気の間の『未病』状態で治療するのが最良です。病気ではなく証を考慮して適切な漢方薬で病気を悪化させないことに力点を置いています」
今回のコロナについても、未然に防ぐことで、感染者を減らし、さらに感染したとしても重症化を抑えられると渡辺医師は話す。
漢方は、コロナを治しているわけではないとも渡辺医師は強調する。
「漢方の基本的な考え方は、ウイルスをたたくのではなく、ウイルスを迎え撃つ元気なからだを維持することです。ウイルス感染の兆候を早くつかみ、未然に防ぐ、あるいは軽症のうちに手を打つことで力を発揮しています。発熱や発汗、下痢などは人間の持つ防御機能ですが、ウイルスの侵入に対して、最大限に防御機能を発揮できるように準備します」
ウイルスはインフルエンザのように増殖が早いものでは、1日に100万倍に増加する。たとえば隣の人の咳で10個のインフルエンザウイルスが体内に入ると、翌日には1千万個になるという。
ウイルスとの関係性を変えるために、宿主側へ援軍を出すのが漢方だ。そして、ウイルスの増殖を初期で抑えることができるかどうかが、重症化を防ぎ、血栓症などの合併症を防げるかどうかにつながるという。
「重症化して肺炎がひどくなると呼吸不全が起こります。さらに合併症として怖いのは血栓症です。ウイルスの増加が抑えられないと、どんどん炎症が悪化し、一生懸命にからだがそれを防御しようと種々のサイトカインを出すので、結果としてサイトカインストームが起きます。我々のからだは、最後の手段として、好中球が自己破壊してまでウイルスをとらえようとします。これによって血栓症が引き起こされます。このように炎症が悪化して大火事状態になる前に、ぼやのうちに消し止めることが重要なのです」(渡辺医師)