中東遠に宮地あり。県内から東海一円、各地へと静岡の院長会議モデルが口コミで伝わった。

 中東遠は東海道新幹線の掛川駅から南西2キロの高台にそびえている。病床数500、職員数は1161人を数える。全国で初めて同規模の自治体病院(掛川市と袋井市の市立病院)の統合で誕生した基幹病院である。

 昨春、コロナ第1波の患者を受け入れた際、職員の子どもが保育園で差別的な待遇を受けた。病院に誹謗中傷が寄せられる。宮地は地元テレビ局の番組で風評被害を語り、強く抗議の意思を示した。内心言い過ぎたかな、と思い、コロナ病棟に足を運んで、患者に接する看護師に感想を聞いてみた。

「気にしないでください。わたしたちも同じ気持ちです。もっと言ってください」と返ってくる。院長は意気に感じ、闘志をかきたてられた。

 宮地は、「問題にぶつかると、力が湧く。外科医の性分でしょうか」と笑みを浮かべる。

「外科医は、見えない病因を検査で探り、可視化して手術をします。手術の成否は、8割方、術前の準備で決まる。患者さんにとって、何が適切か、あらゆるケースを想定し、万一の対処もチームで共有します。やってみないとわからないではいけません。手術中にトラブルが起きて最善の対応をしたと思っても、顧みれば50点ぐらい。十分準備をすれば80~90点は可能です。準備さえ整えば、あとは淡々と手術をすればいい。淡々とこなす技術が必要なんです。このような考え方が問題の処理に向いているかもしれませんね」。医療の再建屋、宮地の発想と対処法は普遍性を備えている。

 宮地は、岐阜県土岐市の窯元の次男に生まれた。土岐は美濃焼の産地で、いまも日本屈指の陶器生産量を誇る。幼少期から両親が額に汗して働く姿を見て育った。父は開放的で人情味にあふれ、自宅は地域の集会所のようだった。夕餉(ゆうげ)を囲むと、隣で知らない人が楽しそうにご飯を食べている。そんな雰囲気だ。父の陶器を見る目は厳しく、納得したものしか卸さない。信用を重んじた。病院のサッカーやバレーボールのチームを率いて賑(にぎ)やかに対抗戦に臨む宮地の姿は父に重なる。患者本位の医療の原点も育った家にあるのかもしれない。
(文・山岡淳一郎)

※記事の続きは2021年4月26日号でご覧いただけます。

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