■深夜アニメから“国民的なヒット作”が生まれる新たな可能性
上記のような具体的な数字としてはもちろん、鬼滅のブームがアニメ界隈においてなにより前代未聞であったのは、深夜アニメ発の作品でありながら、国民的と呼ばれるほどのヒット作になったことだと思います。
ご存知の通り、同じ週刊少年ジャンプ作品でいえば『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』など、普段アニメや漫画をみない人でもその名前は知っているような国民的ヒット作は、『鬼滅の刃』以前にもありました。しかしこれらの作品は、視聴者の多い朝や夕方の時間帯に何年も放送されることで、アニメファンや漫画ファンの枠を超えた、国民的な認知度を獲得していったものがほとんどです。
一方、『鬼滅の刃』を含めた深夜アニメは、まず放送時間的に朝や夕方のように「テレビをつけていたらたまたまやっていた」という偶発的な出会いがあまりありません。そのうえ長くても連続2クール放送であったり、作品によっては放送されない地域もあったりと、上記に比べると作品がリーチする視聴者層が限られているため、そこから誰もが知っている国民的なヒット作が生まれるのはかなり難しいことでした。
鬼滅は、そうした制限のある深夜アニメをきっかけとしながら、これまでになかったような国民的なヒット作となったのです。
そこには、アニメ放送だけでなく、その後の原作漫画との盛り上がりの相乗効果や、配信プラットフォームの効果といった様々な出来事が上手いタイミングで噛み合ったという、鬼滅でしか成し得なかった要因がありました。そのため今回の出来事を参考に、鬼滅と同じようなヒット作が今後も簡単に生まれるようになるのかというと、それはもちろん難しいことだと思います。
それでも、これまで難しいと思われていた深夜アニメから、これほどまでの国民的なヒット作が生まれ得ることを実証しただけでも、鬼滅のブームはアニメ界にとって大きなブレークスルーとなる出来事だったといえるのではないでしょうか。
■海外での反応
アニメ放送を機に生じた『鬼滅の刃』ブームですが、それは日本国内だけのドメスティックな現象なのでしょうか? 最後に簡単にではありますが、海外での鬼滅アニメへの反響についても概観してみたいと思います。
大きなところでは、米クランチロールで毎年開催されている「2020 Crunchyroll Anime Awards」にて、鬼滅がその年の最優秀賞となる「ANIME OF THE YEAR」を獲得したことが話題となりました。
全世界の登録者数が7000万人を超える世界最大級の日本アニメ配信プラットフォームで年間アワードを受賞したことからは、日本同様、世界のアニメファンにとっても、鬼滅が“2019年の顔”となる作品であったことが窺えます。