現実世界の大黒柱妻も同じ体験をしている。

 愛知県在住の30代女性も大黒柱妻を自認する。結婚当初から教師の夫より医師の妻の収入が高く、家事育児はほとんど夫任せで「長時間労働にすべての体力を使い果たしてきた」。家族や友人との時間を大切にする夫と何度も衝突したが、本気で仕事の負担を変えることはしなかった。

■内助の功は語られない

「育児、家事の第一責任者でなくなると、次第に仕事を理由に家にすぐ帰らなくなり、子どもが困っているときに相手が何とかしてくれるのではないかと待つようになりました。自分が大黒柱だから、家のことは(夫が)やってくれて当然と無意識で思い、昭和の専業主婦のような献身を夫に期待してしまったかもしれません」

 ジェンダー問題として取り上げられることの多い「夫が家事育児しない問題」だが、立場で変わる問題だと気づいたと、この女性。夫から「このままなら一緒に暮らせない」と離婚を切り出されて初めて真剣に捉え、家事と育児を分担するようになったという。

 一方の大黒柱妻の夫たちは、何を思っているのだろうか。

 自分にとっての救世主がまさに大黒柱妻である妻だった、と語るのは都内在住の40代男性。自分は会社で出世して家族を養ういわゆる旧態依然とした“男性”らしくは生きられないだろう、と若い頃から感じていた。

「妻がいなければ、私は自死するか、引きこもりになっていたのは間違いありません」

 現在は派遣社員兼フリーライターとして働き、妻との収入差は3倍以上。買い物と食事作り、掃除は主に男性が担当し、妻の帰りを待つ。その役割に適性を見いだしたと言い、バリバリ働きたい女性には「Win-Winの関係」と自負するが、大黒柱妻の夫についてもう少し世間の認知が進んでほしいという思いもある。

「妻が異例の早さで管理職に昇進したことについて、妻の社会人としての能力の高さを周りは評価しますが、私の“内助の功”について述べられることはほとんどありません」

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