がん細胞に光を当てることで薬剤が反応し、がんを破壊する「光免疫療法」。その実現のために個人出資をし、2020年、日本で薬事承認・保険収載されるまでをリードしたのが三木谷浩史氏だ。開発者・小林久隆医師のインタビューに続き、現在発売中の『手術数でわかる いい病院2021』(朝日新聞出版)から三木谷氏のインタビューを掲載する。
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■がんの父を救うため世界中で治療を探した
父・三木谷良一に末期の膵がんが見つかったのは2012年でした。治療が難しいがんだと聞き、最初はとてもショックを受けました。経済学者であり、社会学者でもあった父の考え方が私の人生に与えた影響は、非常に大きいものでした。
闘病中はほぼ毎日会いに行き、それまで以上に一緒の時間を過ごしました。本人は苦しかったと思うのですが、気丈に振る舞っていました。病床から仕事のアドバイスをもらったりしていました。
じつは父のがんを知ったとき、私はすぐに「なんとかなるはずだ」と考えました。アントレプレナー(起業家)の癖です。今までひとごとだったがんについて、素人ながらいろいろな論文を読み漁りました。がん治療の権威がいると聞けば、サンフランシスコ、サンディエゴ、ニューヨーク、パリなどに飛び、父を救う治療法がないかを探りました。
そんな時、光免疫療法の研究について紹介を受けました。楽天市場に出店しているワッフルケーキ店の社長のいとこが、小林久隆先生だったのです。
■1週間で3度会い信頼できる人だと感じた
小林先生とは1週間で3度お会いしました。とても気さくで、話もわかりやすく、信頼できる人だと感じたのを覚えています。光免疫療法について、友人の医師の意見は半々に分かれました。可能性を感じる人もいれば、「非臨床でうまくいっても、人間にはうまくいかない」と言う人もいました。
ただ私は、化学療法や免疫療法と違い、「光に反応した物質が作用して、物理的に細胞を破壊する」という点に目が向きました。どれぐらい効くのかはわからないが、ある程度効果があるのではないか、と感じました。
父の治療には間に合わないかもしれない。しかしそれがきっかけで、たくさんのがん患者さんが助かるような治療法にたどり着く可能性があるのだとしたら、懸けてみる価値はある。そう思い、出資を決めました。