ワクチン接種が進み、コロナ感染率が下がったため、屋外でのマスク着用が求められなくなった/4月21日、イスラエルのテルアビブ(写真:Mostafa Alkharouf/Anadolu Agency via gettyimages)
ワクチン接種が進み、コロナ感染率が下がったため、屋外でのマスク着用が求められなくなった/4月21日、イスラエルのテルアビブ(写真:Mostafa Alkharouf/Anadolu Agency via gettyimages)
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AERA 2021年5月17日号より
AERA 2021年5月17日号より

 ワクチン接種が着実に進む国がある一方、日本では遅々として進んでいない。なぜ日本では国産ワクチンの開発がこれほど遅れたのか。今後も未知の病と人類の闘いは続くが、どう対応していったらいいのだろうか。AERA 2021年5月17日号から。

【図】ワクチンを1回接種した人の割合 日本は?

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 かつて日本は日本脳炎や水痘のワクチンを世界に先駆けて開発する「先進国」だった。しかし、1970年代に集団接種で脊髄(せきずい)炎や脳性まひ、知的障害などの重い後遺障害が生じ、患者と家族が予防接種禍訴訟を起こす。89年にはMMR(おたふく風邪、麻疹=はしか、風疹の三種混合)ワクチンの接種で無菌性髄膜炎が多発して集団訴訟が提起された。予防接種不信が高まり、90年代に予防接種禍訴訟の原告勝訴が確定すると、国は方針を大転換。94年、予防接種を「義務」ではなく「努力義務」とし、「集団」から「個別」へと接種形態を変える。個人の選択に委ねる、消極的な方向に大きく舵(かじ)を切ったのだった。

■国際間でデータシェア

 こうした状況で、製薬業界はワクチンの新規開発をためらう。厚労省は海外で導入されたワクチンでも副反応を問題視し、国内の承認を下ろさない。2000年代に入り、欧米では無料で接種できるワクチンが日本だと有料の任意接種となり、未接種者が増える。いわゆる「ワクチンギャップ」が深刻化した。

 さすがに厚労省も新型インフルエンザの流行(09~10年)を機に国産ワクチンの振興を図ろうと「開発・生産体制整備事業」と銘打ち、4社に総額1千億円以上の補助金を付けた。ところが、補助金の限定的な使い方に縛られ、2社は十分な供給体制を構築できずに撤退し、惨憺(さんたん)たる結果に終わった……。

 と、ふり返れば負の連鎖であった。悪循環を断ち切るには、何からどう手をつければいいのか。東京大学医科学研究所教授で、免疫学者の石井健氏はこう指摘する。

「今後、未知の病原体に備えて、新次元のワクチンデザインが必要です。たとえばワクチンの要素をモジュール化し、いざというときに備える。その場合、内向きのオールジャパンで閉じてはいけない。グローバルにつながり、国内にないモジュールでも、シンガポールやロンドン、カリフォルニアにあれば、すぐに入手できるようにする。もう一つは、オープン・イノベーション。透明性を担保してデータを国際間でシェアすること。いずれも成果をタダ取りされないようアライアンス(戦略的提携)は必須。小さいながらも私の研究室ではそうしています。グローバルかつオープンな研究を、10年かかろうが若い人が中心になってやるべきだ。国民のワクチン忌避に対しては公益とリスクの視点からの教育が欠かせません。効くワクチンを打たないのは満員電車でマスクをせず、咳をするようなことなのです」

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