エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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4月27日、「LGBT平等法」の制定をめざす4団体が法律の必要性を訴える集会を開き、ロバート・キャンベルさんが登壇した (c)朝日新聞社
4月27日、「LGBT平等法」の制定をめざす4団体が法律の必要性を訴える集会を開き、ロバート・キャンベルさんが登壇した (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 もし、あなたがクラスで仲間外れにされたら。つらいですよね。あなたは「いじめをやめさせてほしい」と勇気を出して校長先生に伝えました。すると校長はこう答えます。「わかりました。じゃあ、これからクラスのみんなに、あなたのことをもっと理解してあげるように呼びかけましょう」。これで安心できるでしょうか。いじめはダメだと言ってほしいのに、校長はそれには答えていません。

 これは、性的マイノリティーの人たちが経験していることです。およそ半数が、性的指向や性自認を理由に、学校や職場で不当な扱いやいじめを経験しています。自死未遂の割合は性的マイノリティーでない人たちに比べて6~10倍にもなります。でも、守ってくれる法律はないのです。

 日本は憲法第14条で法の下の平等を謳(うた)っています。それに基づき、人を性別や障害で差別してはならないと法律で定めています。しかしG7で唯一、性的指向や性自認で差別してはならないという法律がない国なのです。

 自民党が今国会での成立を目指す「LGBT理解増進法」には、性的少数者を差別してはいけないとは明記されていません。これでは当事者の人権を守れません。「理解してあげて、思いやりを」と心掛けを説くだけでは、不十分です。差別を放置することにもなりかねません。人を性的指向や性自認を理由に差別してはいけないと、法律で定める。性的マイノリティーへの理解を深めるのに、これ以上効果的なメッセージはないでしょう。

 2019年の全国意識調査では、性的マイノリティーに対するいじめや差別を禁止する法律や条例を作ることに87.7%の人が賛成、同性婚には64.8%が賛成しています。人々の理解が進んでいるにもかかわらず、差別がなくならない現状を打開するには、国がはっきりと差別禁止を打ち出すことが不可欠です。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2021年5月17日号