さて、右往左往する緊急事態宣言だが、そもそも1回目の宣言時、発出は遅れていた。当時、安倍晋三首相に私は一対一で、「なぜ、日本では緊急事態宣言が、欧州諸国、米国に比べて約1カ月も遅れたのか」と問うた。すると、安倍首相は、「緊急事態宣言をすると基本的人権やプライバシーを損ね、また日本は先進国で最も財政事情が悪く、10年15年後には財政破たんが起きると言われていて、緊急事態宣言などすると、100兆円、200兆円の資金が必要になるということで、大臣たちもマスコミも強く反対していた」と話した。

 さらに、他国には緊急事態に違反すると罰則規定があるが、日本にはなぜないのかと問うと、「日本国憲法には緊急事態条項がなくて、罰則規定など作ったら政権が持続できない」と答えた。

 5月3日の憲法記念日に、日本経済新聞は「緊急事態条項が必要か」という論議を第2面の全面をかけて展開した。日本国憲法には「緊急事態条項」なるものが欠如しているというのである。記事では、同条項は災害や戦争で国家の存立が脅かされた場合、個人の権利を抑制できるようにするもので、現憲法に明確な規定はないとある。

 現在、3回目の緊急事態宣言を出してはいるものの、効果が上がっているようには見えない。この問題をどう捉えるべきだろうか。

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

週刊朝日  2021年5月28日号

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