芸人である限り、見る人を笑わせたいという気持ちは地上でも地下でも変わらない。「地下芸人らしさ」というのがあるとすれば、それは自分が面白いと思う限りでどこまでも思い切ったことをやるべきであるという意識のことだ。

 それは、料理にたとえるならスパイスのようなものだ。基本的な味つけを整えた上で、適切な量のスパイスが加えられると風味が増す。しかし、地下芸人は往々にしてスパイスの量を増やしすぎてしまい、世間で求められていることから離れてしまう。

 マヂカルラブリーは吉本に入ってからも、周囲の芸人となかなか馴染めない時期が長かったという。彼らは型破りな芸風を貫き、決してそれを曲げなかった。

 2017年の『M-1』では初めて決勝に進んだが、最下位に終わった。審査員の上沼恵美子には酷評され、失意のどん底に沈んだ。

 それでも、彼らは芸風を変えたり、地下芸人っぽさを薄めたりすることはなかった。むしろ、さらにそれを突き詰めて洗練させていった。

 再び決勝に上がった2020年の『M-1』では、登場時から野田が床にひざをつき、土下座の格好で客席を沸かせていた。「何でもあり」の地下芸人界で育ったからこそ、この大舞台でそんな大胆不敵な行動に出ることができたのだろう。

 そこで空気をつかんだ彼らは、2本の漫才で爆笑を起こして優勝した。審査員の上沼からも絶賛の言葉をかけられ、見事にリベンジを果たした。

 大会終了後、マヂカルラブリーの漫才は漫才とは言えないのではないか、と騒ぐ人が続出して、前代未聞の「漫才論争」が巻き起こった。しかし、彼ら自身はそのことも意に介さず、むしろそれをネタにしている。

 5月17日放送の『マヂカルクリエイターズ』では「漫才のようなもの王」という企画が行われた。「あれは漫才ではない」と叩かれたマヂカルラブリーが審査員を務めて、芸人たちが披露する「漫才のようなもの」を見て、それが漫才かどうかを判定していた。

 芸人としての圧倒的な実力という土台の上に、「地下芸人っぽさ」というスパイスが絶妙に利いているからこそ、マヂカルラブリーは面白い。地下から出発して地上を席巻しつつある彼らの活躍は今後も続くだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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