「小説で登場人物が強いことを言っても、その奥にやさしさが出るようになった。これは非常に面白い。いいことだと思います。文章は強いだけでなく、優しさがないとだめなんじゃないかな」

 言葉の力──。伊集院さんのエッセー最大の魅力は言葉だ。前に進むための力強く、時に優しい言葉で、多くの読者を励ましてきた。本書でもコロナ禍で苦しむ人に、

<頑張れ。少し見えづらいが、目を開いてごらん>

 と語りかけ、

<一人で歩き出してみてはどうでしょうか>

 と優しく呼びかける。

「今は苦しいけど、人類の歴史の中で感染症が人間に打ち勝った例は一度もない。必ず最後は彼らを隅に追いやり、元の生活に戻った。なぜかというと耐えたから。笑って過ごせる時がくるまでは我慢が大切。大事なのはこれですね」

 家族や友、師や後輩を死に貶めたコロナとの「WITHコロナ」はないと力を込める。

「コロナは追い出すべきもの。それを、家族とか知人を死に至らしめたものを、『WITH』なんていうもんじゃない」

 コロナの猛威はまだ続く。一人になる状況が否応なしに多くなるが、一人だということを意識するような弱さではだめだと伊集院さん。

「風に向かって立て。自分以外の誰かのために、手を差し伸べてみよう。きっと何かが、そこにある」

「大人の流儀」を聞いた。(編集部・野村昌二)

AERA 2021年5月24日号

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