
AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビューする。
「最後の無頼派作家」伊集院静による、シリーズ累計206万部突破の大ベストセラー第10弾『ひとりをたのしむ 大人の流儀10』が刊行された。
人はあえて一人になるのではなく、一人になる状況が否応なしにやってくるという。家族、恋人、同僚、友だち……。コロナによって一人になる時間が増えた今、どのように一人に向き合えばいいのか。著者は、「ひとりをたのしむことができたら、それはたぶん大きな一歩になるだろう」と記す。
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ひとり──。一人、独り、孤りとも書く。
伊集院静さん(71)の最新エッセーは、こんな書き出しで始まる。テーマは「ひとりをたのしむ」だ。
「一人はね、やっぱり響きがいいよね」
一人について尋ねると、こう答えた。
聞けば、幼い頃から人と同じことをするなと亡くなった父親から言われてきたという。人とつるむな、と。だから、誰かと徒党を組んだり、つるむということは一切なかったと話す。
「一人って軽い感じがするけど、重みがあるよね。大勢で歩いている時は自分の足音は聞こえない。だけど、一人で歩く時は聞こえてくる」
本書は「大人の流儀」シリーズ。12年前に「週刊現代」の連載で始まった。ほぼ1年に1冊のペースで出し、本作で10巻目。累計で200万部を超えた。どのような思いで書いてきたのか。
「自由ですね。明後日が締め切りですと言われて、書いていかなきゃあ間に合わない。じゃあ、書くかと」
新型コロナウイルスや自身の病気、亡くなった愛犬のことなど、今年1年、伊集院さんの身の回りに起きた様々なことに思いを馳せる。
昨年1月、70歳を迎える直前にくも膜下出血で倒れた。手術後、10日あまり意識が回復しなかった。生死の境をさまよい、人生観は変わらなかったが、書く文章が柔らかくなったと語る。