コロナ禍で、芝居に対する向き合い方を変えた片桐はいりさん。何が起こるかわからないなら、とにかくやりたいことをやろう、と。年齢不詳の個性派俳優は、今、おばあさんのルックスに憧れている。
【前編/片桐はいりが振り返る幼少期「見た目のことで昔は苦労もしました」】より続く
* * *
現在58歳。今から30年以上前、片桐さんの父は、55歳で定年を迎えた。そんなことも影響し、「自分はもう定年後なんだ」と思って、仕事は、なるべくやりたいことだけをやるようにしている。
「以前は、私が仕事を選ぶ要素は三つあったんです。でもこれ、生々しいので、言わないほうがいいか……」と言いかけてやめようとしたので、「せっかくなのでぜひ」と粘ると、静かにふっと笑って、「一つはお金、二つ目が地位とか名誉みたいなもの。三つ目が快楽」と、確かに奇麗事ではない、若干生々しい単語が飛び出した。
「俳優の仕事は、役のオファーをいただいて成立するものですが、一口に“役”といっても、ギャラはいいけど快楽……つまりやりがいの大してない仕事もあれば、ギャラも快楽も大して良くはないけれど、すごく目立つような、おいしい役があったり。いろんなバランスのもとに成り立っているんです(笑)。でも、コロナ禍を体験したことで、今は快楽メインで選ぶようになりました」
俳優になって30年以上が経ち、仕事としてやることはたいていやったかと思えば、そうでもない気もする。本当にやりたいことをやるためには、まだ、やらなければいけない仕事があることも自覚している。
「ただ、一昨年までは、こんなにやりたいことができない何年かが来ることは、誰も想像していなかったでしょう? やりたいことは今やっておかないと。この先どんなことが起こるか想像もつかない。だって去年の4月に最初の緊急事態宣言が発令されたときは、まさか1年後も同じような状況が続いているとは夢にも思わなかったですから。出演するはずの舞台が中止になって、当時は1年後にオリンピックはなくなっていて、マスクのいらない日常が戻っていると思っていた。でも、実際はそれが逆になっている。マスクをする生活は相変わらず続いて、オリンピックは開催される前提で進んでいる。予想とは逆のことが起こっていることに、びっくりです」