ユダヤ人とアラブ人の交流を促すもう一つのメカニズムは経済です。実際、ユダヤ人とイスラエル国内のアラブ人は同じ経済を共有しており、お互いに大きく依存しています。ユダヤ人とアラブ人は共に働き、互いに貿易を行い、定期的にコミュニケーションを取り合っています。ユダヤ人もアラブ人も、経済パフォーマンスを向上させることについて考えを共有しています。政府が、ユダヤ人とアラブ人が協力する職場にさらなる支援をするならば、国家としてさらに発展することに役立つにちがいないでしょう。
その良い例がエルサレム市です。数年前、エルサレム全域にユダヤ人とパレスチナ人の地域を結ぶ路面電車が建設されました。当初、パレスチナ人の住民は路面電車をイスラエル占領軍として見て、建設に反対しました。最初の数週間、石が車両に向かって投げ込まれました。しかし、次第に多くのパレスチナ人が路面電車の利点を知り、仕事やレジャーのために町の他の地域を訪れ始めました。エルサレムのショッピングモールは、ユダヤ人とアラブ人の買い物客が隣り合って混雑しており、このように、ユダヤ人とアラブ人の新しい共有の公共スペースができ始めました。
最後の例はサッカーです。サッカーは中東で最も人気があるスポーツで、ユダヤ人とパレスチナ人の両方に熱狂的な人気があります。現在、イスラエルの国内チームでプレーするアラブ人も増えており、イスラエル国内リーグでプレーするアラブチームも数チームあります。またイスラエル国家代表チームにはアラブ人選手5人が含まれており、国際大会でイスラエルを代表してプレーしています。チームのキャプテン、ビブラス・ナトホ氏自身も非ユダヤ人です。国際試合の場では、通常国歌が流れますが、彼やアラブ人の選手たちは、自分自身のアイデンティティーを維持していることを示すため、通常は国歌を歌いません。
このイスラエル・パレスチナの状況を日本の友人に説明しようとすることは、簡単ではありません。日本人にはなじみがない要素が絡み合っており、イスラエルとパレスチナの紛争をあおる勢力の多くは、宗教、領土紛争、地域政治などを利用していると説明しても、よくわからないと思われるでしょう。それでも、私は自分の視点から何とか考えを伝えたいと思っています。特に重要なのは、ここの状況が複雑であり、通常メディアで示されるような一方だけが悪で他方が正義という「白黒」の絵ではないことを伝えることです。
そして最終的には、私はユダヤ人とパレスチナ人は隣り合って暮らす必要があると考えています。なぜならパレスチナ人はここからいなくなることもないし、同じようにユダヤ人もここからいなくなることはないからです。
〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。
