■マンボウを水槽の壁など人工物に接触させないアイデアを求む

 もちろん、水族館で飼育されているマンボウの中には、たらこ唇になっていない個体もいる。マンボウも個体によって多少性格が異なり、たらこ唇になっていない個体はあまり境界に口を擦り付けていないか、水槽に入ってからの日が浅い個体だと考えられる。しかし、何ヶ月も同じ飼育個体を観察し続けると、だんだん体の傷が増え、口も腫れてたらこ唇になっていくことがわかった。

 マンボウの視力は魚の中でも良い方なのだが、何故か境界に接触してしまう。単純に言えば、人工物に接触しないよう、水槽を大きくすればいいのだが、そうなると餌やりが大変になるし、やはり予算がない。限られた空間でもマンボウが人工物に接触しないようにするシステムとかが開発できればいいのだが……現状では具体的な解決策が浮かばない。誰か良いアイデアを持っていないだろうか?

■マンボウの絵がたらこ唇で描かれる理由を考察

 水産関係者以外の人が実物のマンボウを直接見ることができる機会は、水族館くらいしかない。水族館のマンボウはどこに行っても大抵口周りが腫れ、たらこ唇になっている。一般の人はそれが腫れた状態だとは知らないので、マンボウはたらこ唇をしているものだと印象付けられる。水族館のイメージから、マンボウの絵はたらこ唇で描かれる……これが私の推測する、マンボウの絵がたらこ唇で描かれる理由である。これらのことは著書『マンボウは上を向いてねむるのか』にも書いているので、興味が湧いた方は読んで頂けると私は嬉しい。

 Twitter上では、「『星のカービィ』のカインは飼育個体だったのか?」、「『あつまれ どうぶつの森』で釣ったマンボウは確かにたらこ唇じゃなかった」などマンボウの絵や映像について、たらこ唇かどうかで野生個体か飼育個体かを判別する議論が巻き起こって個人的には面白かった。

■余談:マンボウの唇を食べる

 余談になるが、唇つながりで取り上げておきたいトピックがある。2014年9月25日放送された『ぐるナイ×TOKIO20周年だよ全員集合!10人で史上最大のゴチ3時間SP!』というテレビ番組で、マンボウの唇なる料理が出されたことがあった。台湾でよく食べられるというその部分は、ほぼ皮下ゼラチン層の部分を指していた。皮下ゼラチン層はコラーゲンの塊で、台湾では茹でてスープなどに入れて食べられる。

【主な参考文献】 
 澤井悦郎.2019.マンボウは上を向いてねむるのか: マンボウ博士の水族館レポート.ポプラ社.東京,207pp.
 
●(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)やYouTubeで情報発信・収集しつつ、無職で自分に合った仕事を探しながらもなんとかマンボウ研究して生きていくためにファンサイト「ウシマンボウ博士の秘密基地」で個人や企業からの支援を急募している。

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