このエピソード自体は決して大きなことではないが、たとえ自分がどんな立場であっても、自身の「肩書」にとらわれず、その時必要なことを自然にできるか、という姿勢が問われる。そこにあるのは、「チームとして、より良い仕事をするために、自分ができることをやる」という極めてシンプルな行動理由ではないだろうか。


 
 人は肩書という「ラベル」が付けられると、「肩書外」のことを自分の責務だと思えなくなる。ある人に「新人」というラベルが付いていれば、雑務も重要な責務の一つであると暗黙のうちに捉えるが、「社長」というラベルが付いていればそうではないだろう。

「リーダー」という存在がその肩書以外のことを当たり前のようにやる姿勢は、部下や後輩が「尽くしたくなる」動機となる。

 そして当然、リーダーのこの姿勢は周囲の人間にも影響をもたらす。

「内村さんを見ていると、自分に何ができるかをいつも考えさせられます。片手に荷物を持っていたとしても、もう片手は空いているんだったら、その片手でできることがあるんではないかと」(前出・大の木氏)

 こうした内村の態度・スタンスの影響もあり、彼の周りには、そういった「肩書の越境」を嫌がらない人間がおのずと増えていくのだという。

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 これこそまさに、リーダーの誰しもが喉から手が出るほど欲する“各自が考動するチーム”ではないだろうか。このような「肩書の越境」が当たり前になれば、組織における「上下関係」だけではなく、担当領域などの「横関係」においてもいい影響を及ぼせるであろう。

●畑中翔太(はたなか・しょうた)
博報堂ケトルクリエイティブディレクター。アクティベーション領域を軸に手段とアプローチを選ばないプランニングで、「人を動かす」統合キャンペーンを数多く手掛ける。 これまでに国内外の150以上のアワードを受賞。Cannes Lions 2018 Direct部門審査員。2018年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト。