元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。持ち家購入、想定外の支出に悩まされた愕然とした稲垣さん。今回は「家は買った方が得か、借りた方が得か」の第2弾をお届けします。
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前回、「家賃と同程度の負担で家があなたのものに!」というセールストークを真に受けることの落とし穴について述べた。今回は別の角度からこの問題を論じてみたい。
今や断然「借りる派」の私ではあるが、実を言うと、条件によっては「買う」のもアリだと思っている。
それは、買った家にずっと住み続ける場合だ。
というのはですね、前回申し上げた管理費や修繕積立金は、借家でも結局は家賃に上乗せされているはずなので、負担は変わらない。つまりは、その負担をちゃんと自覚して購入するならどちらが得とも損とも言えず、老後に家を借りられないリスクを考えれば、やはり買ったほうが安心とも言える。ただ繰り返すが、これはあくまで「買った家に住み続ける場合」のこと。
そうなのだ。これこそが、今の時代に家を買うことの最大のリスクだと私は思う。
何かの事情で住み替えることになった時、借家なら身軽。だが持ち家はどうか。この人口減時代に高く売って大儲けを当て込む人などおるまいが、大損を覚悟しても売れるとは限らない。ローンが残っていたら売るに売れなかったりする。何しろ不動産相場とは素人がどれほど研究しようが予測不能の大博打。それが購入価格の6分の1で売る羽目になった我が教訓である。
ならばそこに住めばよいではないかと? いや私もそのつもりだったのだ。購入時、ちゃんと値が下がることも想定し、住み続けるなら問題なしという「正しい」結論に至った上で決意を固めた。だが人生とは全く思い通りにならないということを若く愚かな当時の私は知らなかった。
転勤時は貸せば良いと思っていたが借り手がつかず、ついたらついたで自分が戻っても出て行ってくれず別の家を借りる羽目に。会社を辞めてやっと戻れると思ったら、親の老いという現実を前にそうもいかなくなった。未来など誰にも予測できぬ。ましてこの混迷の時代、唯一確実なのは、5年後の自分も社会も予測不能ということ。一生どこに住むかなんて誰にわかる?
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2021年5月31日号