油田や炭田などの化石燃料への新規投資の即時停止、35年までにガソリン車の新車販売の停止、50年に再生可能エネルギーの占める割合を約70%に引き上げる──。
【一覧で見る】2050年までに温室効果ガス実質ゼロを実現するのに必要な取り組み
【前編/大分と東京で9倍…CO2排出量で地域差 「脱炭素」で地方は疲弊?】より続く
国際エネルギー機関(IEA)が5月に公表した「工程表」は、「企業はじめ関係者にとって衝撃的だった」(大手商社のエネルギー部門幹部)。
50年までに世界全体の温室効果ガス排出量を実質ゼロにするため、その必要なスケジュールを示す。「逆算するとこうなる」といったものだが、企業のビジネスモデルや事業戦略に大きな転換を迫る提言内容となっていた。
工程表では、30年までに再エネ関連などの分野で雇用が1400万人増える一方、石油やガス、石炭など化石燃料分野で500万人減ると分析している。
地球環境産業技術研究機構(RITE)は、50年の国内の電源構成について、かりに再エネ54%、原子力10%、水素・アンモニア13%、化石燃料とCO2回収技術による組み合わせ23%とした場合、電力コストが20年に比べ約2倍に増える可能性があるなどと試算している。
「再エネの固定価格買い取り制度(FIT)を参考にすると、CO2を1%削減するのに毎年1兆円程度の費用がかかっています。温室効果ガス削減目標を従来の26%から46%まで、20%分を深掘りするには、単純計算で毎年20兆円の追加費用がかかる計算です。人口1億人として、毎年、1人あたり20万円の負担増に相当します」(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志さん)
とはいえ、気候変動問題は待ったなしだ。
気候ネットワーク理事の平田仁子さんは「問題の進行を止めるには『30年に46%削減』でも不十分」だとする。
「政府が目標を掲げたこと自体は歓迎しますが、日本の対応は世界の進んだ国に比べると周回遅れ。多くの企業も、国の姿勢をうかがいながら足踏みを続けてきました。でも、気候変動の影響は年々悪化し、豪雨や台風、熱波の頻発など目に見える形で表れるようになっています。もはや将来世代のためだけでなく、自分たち自身に降りかかる問題。しかし、日本では対策が“負担”としてとらえられることが多く、メリットはあまり語られてきませんでした。いち早く対策に取り組むほど負担や損失は軽く済み、得られるメリットが大きくなることに気づくべきです」(平田さん)